09. いないなら、育てればいい
昼下がりのギルド応接間。
月はため息をつきながら、目の前の段ボール箱をじっと見つめていた。
依頼書がぎっしり詰まった箱が、机の上に三つ。
中身はすべて高難度案件――どう考えても、今の人手ではさばききれない。
「食料の供給は整った……でも、ギルドとしての“機能”がまだ足りない」
受付には誰もいない。
依頼を受け付ける人間も、管理する人間もいない。
このままでは、運営自体が立ち行かなくなる。
(教会の子どもたち……中には文字も読めない子もいた)
数日前の記憶がよみがえる。
紙を手に取りながら、ひらがなさえ読めずに首をかしげていた、あの小さな手。
――いないなら、育てればいいじゃない。
月は椅子から立ち上がり、白紙の紙を取り出すと、ペンを走らせはじめた。
線が交差し、枠が生まれ、言葉が並び……
“ギルド付属教育施設”の設計図が、少しずつ形を成していく。
その様子を横目で見ながら、マスターはのんびり湯のみを傾けていた。
「いやぁ……勝手に考えて、勝手に動いてくれる人って……ほんっと便利だよねぇ」
湯のみを置いて、にこっと笑う。
「マスタだよ☆」
月の背中。
その向こうには、山のような依頼書と、白紙だったはずの設計図面が広がっていた。
ギルドは今、戦うだけの場所から――
人を育てる場所へと、静かに進化しようとしていた。
次章・第4章『終焉の茶会、黒板と木槌とDIY』は、
7月13日 朝8時より投稿を開始します。
どうぞ、お楽しみに。




