08. 食糧供給ダンジョン、始動!
早朝。
月はギルド裏で、一体の魔物と向き合っていた。
「君、ダンジョンを発生させる能力があるんだよね?」
「そ、そうですけど……! 戦う系じゃなくて、環境構築専門の――」
「うん、それで充分」
にこりと微笑む月の背後には、静かな威圧感が漂っていた。
魔物は一歩引き、視線を泳がせる。
「……なんで俺が……」
「だって、君の力が最適なんだもん」
返答の余地も与えず、月は断言した。
観念したように、魔物は小さくうなずいた。
数時間後、ギルド裏には重厚な石造りの入口が出現していた。
「……また何か始めたのだ……」
帝が遠巻きに呟く。
「姉さん……ノリノリだね……」
カノンも眉をひそめる。
その視線の先では、月が魔力を注ぎながら嬉しそうに笑っていた。
新設されたダンジョンは、全六層構成。
【1層目:野菜ゾーン】
→ 根菜・葉野菜が繁茂。ぷるんとした弱々しいスライムが徘徊している。
スライムを軽く叩くと、キャベツやにんじんが飛び出す。
【2層目:穀物ゾーン】
→ 転がる小麦玉や、跳ねるライススライムから穀物類が採取可能。
【3層目:加工品ゾーン】
→ スライム型のパン生地を捕まえると、パンがドロップ。チーズスライムも登場。
【4層目:魚介ゾーン】
→ 水生スライムや魚型魔物。安全設計の小川で釣りが可能。
【5層目:果物ゾーン】
→ 木の上をぷるぷる跳ねるフルーツスライムから果物入手。
【6層目:肉ゾーン】
→ もっとも奥に位置し、低確率で高級肉スライムが出現するエリア。
後日、月は教会を訪れ、シスターと子どもたちに告げた。
「というわけで、今日からみんなでダンジョンに行きます!」
「えぇぇ!?」「こわくないの!?」「モンスターいるんでしょ!?」
「大丈夫。ぷるんってしたのが跳ねてるだけだから」
子どもたちがざわめく中、月はにこやかに説明を続けた。
「ただし、お肉にたどり着くには――ぜんぶの階層をクリアしないとダメですよ?」
「まずは野菜、そして穀物、加工品、魚と果物。そのあとに、ようやくお肉です」
「……やっぱりお姉ちゃん、容赦ないのだ……」
帝がこっそりつぶやいた。
「でも、これって……運動にもなるし、自立支援にもなるかもね」
カノンが肩をすくめる。
笑顔のまま、月はさらりと宣言した。
「狩りと採集を学べば、みんな強くなるんです。ねっ♪」
こうして、終焉の茶会ギルド裏の『食育型ダンジョン』が、本格的に運用を開始したのだった。




