08.休暇を満喫する者、できぬ者
夏休み最後の日が繰り返される――そんな特異な静けさの中で、誰もがそれぞれの休暇を思い描いていた。
「樹、お前明日から長期休暇らしいな」
シキが涼しい顔で告げる。
「……………ソンナコトナイヨ??」
樹は乾いた笑いで誤魔化した。
「仕事行くぞ」
短く放たれた一言に、樹は天井を仰ぐ。
「あーーーーーーー」
*
「明日からどうするにゃ……」
ミミが尻尾をぱたぱたさせてため息をつく。
「まとまった休みなんて久しぶりですからね……どうしましょう」
橘が真面目に腕を組む。
「ふっふっふー……。おねえさんに任せない! セレナも誘って一緒にエステ行くわよ!」
カグラが得意げに指を鳴らした。
「にゃ!」
ミミの耳がぴょこりと跳ねる。
「エ……エステですか!?」
橘は目を丸くする。
「あらあ?? わたしは承諾してませんが??」
セレナが小首をかしげる。
「こんなの勢いよ! 行くわよ!」
「はい!! 姐さん!!」
ミミと橘が揃って元気よく返事をする。
「あらあら。うふふふ」
セレナは肩を揺らして微笑んだ。
*
「ふむ………久しぶりに温泉でも行くかのぉ」
学園長の神崎が、のどかな声で独り言をこぼす。
「いいですねぇ。学園長」
ラットンが上品に頷く。
(ジジイ………)
柊・ヒサメ・シルフは、それぞれ心の中だけで同じ言葉を転がした。
「行ってみたいところがあるんじゃが……ラットン先生もどうかの?? 砂風呂なんじゃが」
「ご一緒しましょう」
ラットンは満足げである。
(蒸しネズミ……)
ヒサメの心の声が過る。
(まずそう……)
シルフの心の声が続く。
(ネズミ肉かぁ……熊肉ならともかくも……)
柊の心の声も漏れる。
「?????」
グレンは周囲の気配を読み取れず、静かに首をかしげた。
*
「……………何をするか」
夜行は窓外へ視線を投げる。
「俺ん家で飲む??」
鬼影が気楽に誘った。
「…………なぜ?」
夜行の返しは相変わらず素っ気ない。
「旧知の仲じゃーん」
鬼影は笑って肩をすくめる。
「………………酔潰してやる」
夜行が淡々と結論を告げる。
「酔わないもんね〜」
鬼影は得意の笑顔で軽口を返した。
*
「……………郷でゆっくり過ごすか」
「そうだな」
「馴れ合う必要もないでしょうしね」
エルフたちは短く言葉を交わし、静かな郷の緑へと思いを馳せた。
――誰もが、「終わらない今日」をそれぞれのやり方で満喫しようとしていた。




