03.夏の楽園は、宿題の先に
「夏休みの友っていうけど……こんなん夏休みの敵だよ!!」
「自由研究に、読書感想文……とか……さ……やることが多すぎる!!」
「つい最近、魔力石を取りに命がけの課題をこなしたというのに!!」
「月先生、容赦なさすぎる!!」
「そもそもあの人、先生じゃなくて事務員なんだけどね!!」
「いや、事務員権力ありすぎでしょ!!」
机に向かっていた生徒たちが、口々に不満をぶつけあう。
それでもペンは止められない。
「来年さぁ……うちの妹が入学するんだ」
「おめでとう」
「……あたしよりもちょっと優秀で魔力があるみたいでさ……」
「それは………」
「入学式でさ、もしもだよ? もしも反抗的な態度をとったら………」
「…………………通過儀礼ってことで」
「うん。内緒にしておこうと思う」
誰もが宿題に追われながらも、心の奥では夏の楽しみを思い描いていた。
プールに、花火に、キャンプ――。
楽園を手に入れるため、生徒たちは黙々とペンを走らせる。
――その頃。
平屋の一室では、カノンが机に突っ伏していた。
「あ~~ん(泣) 終わんないよ〜」
「俺は終わったのだ」
帝は涼しい顔でそう告げ、横でカノンの悲鳴を聞き流す。
カノンの足元では、連れ帰った神亀が小さなクッションの上でスヤスヤと眠っていた。
家の中に、夏休みの静かな午後が流れていた。




