02.ピリッと痺れる聖女の味
「毒って?? え?! 毒物食べるの?」
柊が青ざめた顔で声をあげた。
「あ〜……アルコール度数のめっちゃ高いお酒に浸けて、何十年とかけて毒抜きするんですよ。原理は知りませんけど……」
月はさらりと言いながら、机の上に瓶を並べていく。
「はい。そしてですね……毒抜きされたものがこちらです。左から二十年、五十年、百年ものでございます」
「…………………」
教師陣は声を失い、ただ唖然とする。
夜行がじっと月を見つめた。
「…………………何をした」
「えっと……まあ……その、チョチョイっと時間を弄りまして……」
「月…………」
低い声で名前を呼ばれ、月はにこっと笑ってごまかした。
「………………はい、夜行先生。あーんしてください!」
月は笑顔のまま、卵のひと欠片を差し出す。
夜行は無言でそれを食べた。
「えー。月ちゃん、俺にもあ〜んして〜」
鬼影がちゃらついた声を上げる。
「はいはい。あーん」
月に差し出された一口を、鬼影は嬉しそうに受け取った。
「ん〜〜美味だねぇ」
「お、珍しいもん食ってんじゃん」
そこに樹が顔を出す。
「え?! 樹先生、知ってるんですか!!」
橘が驚いて声を上げた。
「まあ、なかなか手に入らない代物だから数える程度だけどな。昔、リエちゃんやシキと食べたことあるわ。
百年も待ってらんねーって言って、シキがチョチョイっと時間を……」
「魔導士にとって時間を操るのはマストなのか!!」
柊が思わず突っ込む。
「?????」
樹は首をかしげるばかりだった。
ラットンが瓶を眺めながら尋ねる。
「月先生……この、十年というのは?」
「あ……それは……」
月がしどろもどろになった瞬間、樹が割り込む。
「その卵は最低でも二十年は漬けないと毒抜けねーぞ?」
「…………」
先生たちの視線が一斉に月へと向けられる。
「………その……食べた時にピリッと痺れる感じが…………」
「没収です!!」
「そんな!!! ひどい!!」
月が机にしがみついて抗議するも、容赦なく瓶は取り上げられた。
その様子を眺めていたエルフたちが、呆れたように吐き捨てる。
「毒を喰らう聖女なんて……聖教会が知ったら呆れるだろうな」




