01.それは、わたしですから
夏休みの職員室。
生徒たちが戻ってきて、ようやく日常の空気が戻りつつあるはずの場所に、ひょいと月が顔を出した。
「生徒たちの魔力石を加工してもらうために、鍛冶職人捕まえてきました」
「え?! もう?! 生徒たちが戻ってきてから、まだ一週間しか経ってませんよ!!」
先生たちが一斉に驚きの声をあげる。
そんな反応などお構いなしに、月はにっこりと笑って言った。
「わたしですから!」
「…………また、何か無茶したのか?」
夜行が眉をひそめる。
「いいえ? ん~~……わたしですから」
「…………………」
夜行は深くため息をつき、他の先生たちも顔を見合わせた。
「それは……うん。そう」
結局、誰も否定できなかった。
「鍛冶職人の方に、めっちゃ舌打ちされましたけどね〜」
月が楽しそうに笑うと、ラットンが肩をすくめる。
「まあ……一人しかいないから仕方ないことではあるが……」
セレナがふと思い出したように口を開いた。
「それよりも……月先生? カノン君が連れて帰ってきた神亀の具合は……?」
「……………………あーーー……うん。あれねぇ……。なんとか一命取り留めましたよ」
遠い目をする月に、セレナは首をかしげる。
「????」
「今は、カノンがお世話してます。帝にいろいろと教えてもらいながら……」
シルフが腕を組んで首をかしげた。
「あの神亀……いったい何があったんだ?」
月は少し言いにくそうに視線を落とす。
「……うーん……まあ、端的に説明するなら、体内に魔物の卵を産み付けられてて……それに抵抗するために弱ってたみたいです」
「え???」
橘が絶句する。
「たまにいるんですよ。弱い魔物は、強い魔物に殺される時、最後の抵抗として……その魔物に傷をつけながら卵を産み付けて亡くなる。
卵が孵化するその時まで、その魔物の力を吸い続けて、内からじわじわと……ね」
「うっ……」
柊が顔をしかめ、思わず胃を押さえる。
しかし月は、けろりとした笑顔で付け加えた。
「でも……その卵の。美味なんですよねぇ〜。毒あるけど」
月の言葉に職員室の時が止まった。




