09.最後のひとり
──魔力石の空間。
雪が横殴りに吹きつける中、一人の男子生徒が倒れていた。
全身は雪に覆われ、顔も、手も、ほとんど見えない。
(あぁ……このまま眠れば……楽になる……)
まぶたは重く、もう開ける力も残っていない。
(ごめんね……母ちゃん……父ちゃん……)
その意識が、ゆっくりと沈んでいく──。
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──どこかの家。
部屋の明かりはついたまま、夫婦が椅子に座っていた。
「まだ……あの子だけが帰ってきてない……」
母親の手は震え、声はかすれていた。
「タイムリミットまであと、6時間ある……」
父親の声も、どこか力がなかった。
「朝の8時には扉を仕舞うって!! 月先生が言ってたやろ!!………もう、6時間しかない!!」
「……………少し…、眠ったほうがいい……。戻ってきた時、笑顔でむかえれるように……」
「……………あいつ……こんなに親に心配かけさせて………。いつでも戻ってきてもいいように……せっかくドラゴンの肉で作ったカレーだって……いうのに………。」
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──魔力石の空間。
(……………父ちゃんと母ちゃんの声が……聞こえた気がする………。)
(ドラン肉のカレー……かぁ…………)
(………………………………ドラゴン………肉………カレー…………?????)
「!?!!!! ドラゴンの肉だって!! 寝てる場合じゃない!!!」
突然ガバッと起き上がった男子生徒が、雪の中で暴れ始める。
「ドラゴン肉………ドラゴン肉………ドラゴン肉………」
ふらつきながらも、吹雪の中で石を探し続ける。
「ドラゴン肉ううううう!!!!!」
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──学園 校庭・早朝。
扉の前に、教員たちが静かに並ぶ。
夜明けの光が、空を薄く染め始めていた。
「……………時間です」
月がぽつりと呟いた。
その声は、どこまでも悲痛だった。
教員たちは顔を伏せる者、天を仰ぐ者、それぞれが黙って立ち尽くしている。
「うっ……うぅぅ……」
橘は顔を覆い、静かに泣き始めた。
隣にいたグレンが、黙って肩を抱く。
扉が光を放ち、やがて徐々に透明になっていく。
「…………!!」
月の表情が凍りついた。
そのとき──
扉が再び光を放ち、ギィィィッと開く。
周囲がその気配を察知し、動きを止める。
「ドラゴン肉ゥゥゥゥ!!! カレーェェェェ!!!!」
叫びながら、最後の男子生徒が扉から飛び出してきた。
そのまま校庭を駆け抜け、何やら叫びながら遠くへと走り去っていく。
「………………………………えっと……無事全員帰還しました!!」
月がゆっくりと、噛みしめるように言葉を発した。




