08.信じる者、見守る者
──魔力石の空間。
激しく流れる水。
女子生徒は腰まで浸かりながら、川の流れを逆らうように必死に進んでいた。
冷たい水が容赦なく全身に打ちつける。
それでも、彼女の視線は前を向いたままだ。
目の前には、滝。
その先、崖の上に、淡く光る魔力石が見える。
「……あれが……!」
滑りやすい岩肌には、指も足もまともにかからない。
登るのは不可能。
ならば──
「泳いで……登るしか……!」
水流に押されながらも、生徒は懸命に手を伸ばす。
足を動かし、体を浮かせ、滝を登ろうとする。
(……負けたくない……絶対……!)
流れを感じ取り、ほんのわずかな隙を突いて、ついに──
「私の!! 石!!! ガボボボボ!!!!」
石を掴んだ瞬間、滝の水量が一気に増す。
勢いに耐えきれず、全身が押し流されていく。
(あ……無理かも……)
意識が遠のいていった。
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──学園・昼。
突如、空間に設置された扉が勢いよく開く。
その瞬間、大量の水がどばあっと流れ出し、その中から女子生徒が転がるように出てきた。
「ゲホ!!! ゴホゴホ………。私……死んだ?」
「生きてるにゃ!!!」
ミミが満面の笑顔で生徒に飛びつく。
びしょ濡れのまま、思わず抱きつかれた生徒は目を瞬かせた。
月が歩み寄り、静かに頭を下げる。
「お疲れ様でした。」
「………やったぁ!!!」
涙と共に、全身の力が抜けるように叫ぶ生徒。
周囲で見守っていた教員たちは、ようやく安堵の息を漏らした。
扉を見つめる目は、次の帰還を待つように静かに揺れている。
(あと一人……。タイムリミットは明日の朝)
月は空を見上げ、心の中でそっと呟く。
(信じてますよ。今年も全員戻ってくるって……)
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──魔力石の空間。
吹雪。
最後の一人となった男子生徒が、雪山をさまよっていた。
「…………もう無理………眠い………」
体温が奪われ、足も手も思うように動かない。
寒さに震えるその姿は、今にも倒れそうだった。
「このまま……眠ったら………」
つぶやいた彼は、その場に膝をつき──
ゆっくりと、瞼を閉じた。
強く吹き荒れる風の中、遥か遠くで、まだ見ぬ石だけが、淡く光を放っていた。




