05.魂を刻め、言葉で刻め
──魔力石の空間。
音は、聞こえなかった。
少女の耳には、外の気配も、周囲の音も届いていない。
あるのはただ、自分の呼吸。
自分の心臓の音。
(たぶん……これが最後だ………わからないけど、なんとなくわかる)
少女は静かに目を閉じ、次の瞬間──
全身に魂を込めて、言葉を放った。
その声は、韻を刻み、リズムを刻み、空間に響き渡る。
ラップ。
彼女の魂が乗った、命を削る一節。
言葉が終わると同時に、音が止まる。
光も止まる。
沈黙の中──
「お前の魂しかと見届けた!!」
荘厳な声が空間に響いた。
目の前に、光る石が浮かび上がる。
「これが…………わたしの魔力石……」
少女は、ゆっくりと手を伸ばす。
「お前の心を形にして、立派な魔術師になれ」
「……………はい!!」
静かに、しかし確かにうなずいた少女の前に扉が現れる。
彼女は一歩ずつ、その扉をくぐっていった。
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同じ頃、別の空間。
「……………クソ……あと少しだったのに!」
叫ぶ男子生徒の前には、試練内容が映し出されていた。
──10種類の早口言葉。
それぞれ3回ずつ、噛まずに言えれば合格。
彼は最後の最後、10種類目の3回目、あと1音というところで噛んだのだった。
「(落ち着け……。ここまで来たんだ。集中しろ! 行ける……俺はいける!!)」
自分に言い聞かせるように、深呼吸を一つ。
新たなチャレンジに向け、目の前の文字列を見据える。
──ラストチャレンジ。
「………………新設診察室視察 瀕死の死者 生産者の申請書審査 行政観察査察使 親切な先生 在社必死の失踪!!!!」
怒涛のように、一息で言い切った。
「できた!!!! 言えた!!!!」
その瞬間、空間が光に包まれる。
「よくぞ諦めずにここまできた!! お前の魂を見せてもらった!」
「俺の石だ!!」
歓喜に満ちた顔で、手を伸ばす男子生徒の前に、扉が開く。
「行け! お前の魂を形にしてもらうために!」
「おっす!!」
拳を突き出し、彼は扉の向こうへと歩み出した。




