04.扉の向こうに姉がいる
淡く光る出口の光を前に、二人の少年が歩みを進めていた。
「……あ、あそこだね。出口」
カノンが指さす先に、帰還の扉が見える。
「みたいなのだ」
隣を歩く帝が、いつもの調子で応じた。
試練はすでに終えていた。
二人とも魔石を手にしており、もうあとは帰るだけだった。
「姉さん、待ってるかなあ?」
カノンがぽつりと呟く。
「きっと待ってるのだ……」
帝は短く頷いた。
けれどその顔はどこか複雑で、視線を宙にさまよわせていた。
「君のことも、急いで姉さんに見てもらわないとね!」
そう言いながら、カノンは腕の中の何かを覗き込む。
大事そうに抱えているのは──
「…………神亀……なぜこの空間に……??」
帝がぼそりと呟いた。
(お姉ちゃんになんて言うべきか……。いや、苦労するのはお姉ちゃんだからいいのだ。俺には関係ないのだ!!)
現実から目を背けるように、帝は胸の中で叫ぶ。
「ほら、帝! 行くよ!」
カノンが手を差し出す。
「ふん。はぐれないように手を握ってやるのだ」
帝はそう言いながらも、その手をしっかりと握った。
二人は肩を並べて、扉の向こうへと歩き出す──。
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その夜。
学園の職員室には、交代制で残る教員たちが集まっていた。
夜の当番は、月、夜行、セレナ、橘、グレンの五人。
扉の向こうから戻ってきた生徒は、今のところまだ一人きり。
「……カノン……帝??」
ふと、月が小さく呟いた。
「月先生??」
橘が振り返るが、月は答えず立ち上がる。
なんとなく、胸騒ぎがした。
気配を感じて、夜の校庭へと足を向ける。
風が揺れた。
魔力石の空間への扉が、静かに開いた。
「あ、姉さんだ!!」
「お姉ちゃんなのだ!!」
飛び出してきた二人の声が、夜空に響く。
そのまま駆け寄って、月の胸に飛び込んだ。
「……………おかえりなさい…二人とも」
月は静かに二人を抱きしめ、その頭を優しく撫でる。
「ぐず…………」
背後で、橘が涙をこらえるように鼻をすする。
それに気づいたグレンが、そっとハンカチを差し出した。
月が撫でていた手を止めたのは、その時だった。
──モゾモゾ。
二人の間で、何かが蠢いた。
「???????」
「………………」
「……あ、そうだ。この子、苦しそうだったから連れてきた! 姉さん、どうにかして!」
カノンが腕の中から差し出したのは──神亀だった。
「……………………………………ゴフッ」
月がその場に崩れ落ちる。口元から血が滴る。
「大丈夫か?! 月!!」
夜行がすぐさま駆け寄り、支える。
「あらあらあら〜」
セレナが微笑みながらも心配そうに覗き込む。
「え?! 何が!!」
橘が慌てて声を上げ、グレンは横でオロオロしていた。
「なぜ………神亀が………ぐふっ」
月が震える手で、神亀を指す。
「いたから連れて帰ってきた」
カノンがきょとんと答える。
「帝!!」
「試練会場は別々だったのだ。だから……俺は知らないのだ」
「もう、早くなんとかして!」
カノンが不満そうに声を上げる。
(帝の明日の朝ごはんは苦手なグリンピースごはんにしてやる! カノンは夏休みの宿題倍にしてやる!!)
月は涙目で、しかし確かにそう心に誓った。




