02.ただ打ち続ける、ただ撃ち続ける
──静寂。
魔力石の空間に放り込まれてから、いったいどれほどの時が経ったのだろう。
男子生徒は、静かに碁盤の前に座っていた。
目の前には、四面に展開された碁盤。
その全てを相手に、彼はひたすら打ち続けている。
「………………」
額に浮かぶ汗。震える指先。
右手に持った黒石が、かすかに震えていた。
(なぜ………ど素人の俺が?)
内心の問いは、誰にも届かない。
囲碁──それは祖父の暇つぶしに付き合うため、仕方なく覚えた遊びだった。
趣味でもなければ、勝ちたくてやっていたわけでもない。
けれど今──
パチン、と碁石を置く音が、静寂の空間に響く。
ひとつ、またひとつ。
打てば打つほど、盤面は混沌とし、己の神経は摩耗していく。
(集中しろ……集中しろ………)
口には出さず、何度も何度も唱える。
特にルール説明があったわけでもない。
気づいたらこの場にいて、気づいたら打たされていた。
対面する相手たちは、まるで“生きているかのような石使い”ばかりだ。
勝てる気がしない。
(この試練……どんな意味が??)
打っても打っても、終わりは見えない。
罠のような一手、焦らされる布石、容赦ない挟み撃ち。
何面も相手にするなど、祖父すらやったことはなかった。
それでも──
パチン。
パチン。
パチン。
ただ、打ち続ける。
ただ、打ち続けるしかない。
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同じ頃、別の空間では──
「うおおおおおおおおおおおお!!!」
怒声とともに、爆炎が魔物を包んだ。
その生徒は、両腕から放たれる炎に、ありったけの魔力を込めていた。
目の前には巨大な魔物。
その口元が、ゆっくりと開く。
「この石が欲しければ、力を示せ」
それが、この試練の最初に放たれた言葉だった。
ならばと、生徒は迷わず全力をぶつけた。
渾身の火球。魔力を限界まで集中させた爆炎魔法。
──だが、
「まだまだだ。もっと力をぶつけろ」
魔物は微動だにせず、同じ言葉を繰り返す。
(こんなん……魔力切れ起こして倒れるわ!!)
だが、止めることはできない。
全力でなければ、石は手に入らない。
「くっそおおおおおおお!!!」
再び炎が唸りを上げて魔物に襲いかかる。
だが、返ってくる言葉は──
「もっと力をぶつけろ」
「なんなんだよ!!」
叫びが虚空に響く。
魔力の奔流と、果てしない強制試練。
ここから脱するには、ただ──
撃ち続けるしかなかった。




