01.魔石を手に、肉を背に
校庭に設置された、魔力石の空間への扉が開いた。
それは音もなく静かに動き、生徒たちを送り出した空間へ、今度は帰還を迎え入れる道となる。
教員たちは足早に扉の前へ集まり、息を呑んでその開口を見守っていた。
やがて、扉の向こうから──
どすん、と地を踏み鳴らすような音と共に、生徒が一人、姿を現した。
「……………………えっと……だれ?」
最初に声を発したのは、誰ともつかぬ教員だった。
その言葉に、目の前の生徒が肩を怒らせて叫ぶ。
「ひどい!! こんな可愛い生徒の姿を忘れるなんて!!」
その声に、反応を示した教員が一人。
「…………………その声! コハルか!!」
「あたしだって好きでこんな姿になったんじゃないんです〜」
目の前にいるのは、紛れもなくコハルだった。
だが、以前の姿とは明らかに違っていた。
丸くなった頬、揺れる腹部、地を震わせる足取り──誰もが目を見開く。
「そうですよ〜」
「え?? 待って。三日前まではシュッとしてスラッとして……」
月が困惑気味に言う。
その隣で、カグラも口を開いた。
「一体中で何があったの?!」
言葉を失ったように無言のまま見つめるグレン。
「………………………」
「……あ〜………固まってる」
ヒサメが呆れたように口を挟む。
コハルは、肩を落として深く息を吐いた。
「あたしだって好きでこんな姿になったんじゃないんです〜」
「そ………そうですよね! そうですよね!」
月は慌てて言葉を返すが、言い淀む。
「あの…なんで………その………こう………ポッチャリというか……ふっくらとしたというか……」
「そこはもうデブったって素直に言ったほうがいいぞ?」
ヒサメが真顔で突っ込んだ、その直後だった。
「ふん!!!」
鈍い音が響く。
ヒサメが吹き飛ばされた。
「ヒサメせんせーーーー!!!」
周囲から悲鳴が上がる。腐っても鬼の妖怪。拳にはそれなりの威力がある。
コハルは、胸を張って叫んだ。
「仕方ないじゃん!! あたしの試練フードファイトだったんだよ!! なぜか!!」
「ギャル曽我とかジャイアント黒田に勝てるわけ無いじゃん!!! ありえない!!」
顔を真っ赤にして、両手を振り回す。
その姿に、誰もが呆然としつつも──
「………でも……勝ったんだ……」
一人がぽつりと漏らす。
「鬼の妖怪の本気出してやったわ」
「いや、鬼関係あるかな?」
鬼影がぼそっと突っ込みを入れる。
「ま、取ってきたってことで……ね」
そう言って、コハルは得意げに魔力石を掲げた。
その手には、確かに淡く光る石が握られている。
月は少し間を置いて、柔らかく言った。
「…………色々衝撃を隠せませんが………。あなたが一番乗りですよ!」
「いえーーーい!!」
大きくジャンプしたその瞬間、
地面が鈍く唸りを上げ、足元にひびが走る。
「………魔力石はコチラで回収しますね。まとめて鍛冶師に依頼するので……」
「はーい」
コハルがあっさりと差し出した魔力石を受け取りながら、月は表情を引き締める。
「とりあえず………………ダイエットしましょうね」
「えーーーー疲れて帰ってきたのに?!」
肩を落とすコハルに、月が問う。
「シルフ先生……保護者はなんと?」
「あー……元の体型に戻るまで家、出禁って」
風にゆれる緑の精霊が、申し訳なさそうに答える。
「くっそ鬼ババア!!!」
叫びが校庭に響き渡る中、教員たちは言葉もなく、ただ生還を喜んでいた。




