08.家族を悪く言うやつは、たとえ神でも
「んとね、僕は透明な階段に登って、空の上にある島に行ったんだ」
そう言いながら、カノンは草の上にごろりと転がった。
まるでお昼寝でも始めそうな勢いだったが、言っている内容はまるで夢のようだった。
「その透明な階段ね、魔力の流れが不均一な部分もあって、間違えて踏んだらそのまま真っ逆さま仕様だったんだよ」
「…………………」
「ま、僕の前ではそんなの無意味なんだけどねー」
(相変わらずすごいのだ)
「ウザいのだ」
「心と声が逆だよ」
「…………間違え…………てないのだ」
「ないのか……」
カノンは少しだけ肩をすくめてから、また話を続ける。
「でね、島に着いたら、なんかキレイめな人??がたくさんいてさ」
「…………………………」
「でも、すっごく感じ悪くて。帝のことを“不出来な存在”って言ってたよ。
そんな帝と一緒にいたら、僕の価値が下がる〜〜〜、とか」
帝の心臓が、きゅっと縮む。
(なぜこの空間に神がいるのだ……!? そんなはず……ありえないのだ……)
帝が青ざめている横で、カノンはさらっと続ける。
「で、なんかごちゃごちゃ言ってきたからさ。僕、思わずこう答えたんだ」
(カノン! それ以上言ったら──神の問答で不況を買ったら──!)
「うるせえブス。お前そんなんだから一生片思いなんだよ。
僕が誰といようが勝手だろ。てめぇみたいなブスなんかに指図される覚えはねぇ!」
「………………は?」
帝の口が、あんぐりと開く。
「帝のこと“不出来”っていうけどさ。お前性格が不出来だからフラれてんじゃん。
ダッセーの。性格ブスって本当に可哀想。って言ったら、なんかその人、消えた。
でね、目の前に僕の石が落ちてて──その隣にもう一個。…………なんとなく分かったんだよね。これ、帝の分だって」
「な、なんでお前の前にあるのだ!?!?!?」
「知らないよ? この空間が“こっちの方がいい”って判断しただけじゃないの?」
帝はしばらく目を見開いていたが──ついに、叫ぶ。
「おま……おま……お前!! お前がブスブス言ってたのは、恐らく神なのだ!! カノン!!
神は寛容ではないのだ! 無慈悲で、残虐で、執念深くて………」
「……………だから??」
「だから、じゃないのだ!!!」
「僕の家族を悪く言うやつは、たとえ神でも許さない」
その言葉は、あまりに静かで、あまりに真っ直ぐだった。
ふざけた口調でもなければ、いつもの飄々とした調子でもない。
ただ、そこにあったのは──本気の“怒り”と“信念”。
まっすぐに帝を見つめるその瞳に、冗談の色は一切なかった。
帝は、視線をそらせなかった。
そして──気づいた。
(ああ……これが、オレの試練だったのか……)
だから、石は自分のもとではなく、カノンのもとに現れたのだ。
あの透明な階段も、この空間も、そして“神”でさえも──
帝がどこまで“信じられるか”を、試していたのだ。
「ふ……ふふっ……ふははははははっ……!」
帝は天を仰ぎ、声を上げて笑った。
──カノンという、無意識の光を。
それを“信じきれるかどうか”。
帝にとってカノンは、ただのウザい双子などではなかった。
もう、いなくてはならない存在なのだと──
今、改めて知った。




