表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第15章『終焉の茶会、双つの魂と試練の扉』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

138/162

06.降ってきたのは、光か災難か

森は、静かだった。


誰の声もしない。鳥も鳴かない。

空気は冷たく、地面はぬかるみ、風はどこか生ぬるい。


帝はその中心で、ただ立ち尽くしていた。


「……なんで……オレは、また生きているのだ……?」


小さな声が、誰に届くでもなく、こぼれ落ちる。


「何のために……生まれたのだ……?」


足元の土がぬかるむ。

重く、沈み込むような感覚が足裏から這い上がってくる。


「不出来な存在。不要の産物。いなくても……いい存在なのに……」


帝は、歩みを止めた。


「……このまま……消えたほうが楽なのだ……」


木々の影が濃くなる。

森の気配が、帝を包み込むように、静かに、だが確実に、濃度を増していく。

まるで“帝”という存在を飲み込もうとしているようだった。


──そんな時だった。


「みーかど。いつまでそこにいるの? 早くこっち来なよ」


帝は、はっと顔を上げる。


「……!?」


その声は、聞こえるはずのないはずの声だった。

いるはずのない、あの声。


「帝ってさぁ……頭でなんでもごちゃごちゃ考えるよね〜」


「考えて考えて……考えすぎて。何がなんだか分からなくなって。諦めて……」


「……うるさい……のだ……」


帝は顔を伏せ、呟くように言う。

だが、その声は止まらない。


「僕、頭悪いからさあ……難しいこと言われてもわかんないけど。


…………でもね? 帝が思ってること、ちょっとだけ読めちゃうんだよ?」


思い出す。


カノンは、小さい頃──人と話せなかった。

人の心が読めてしまったから。


それは祝福ではなく、呪いだった。


他人の怒り、恐れ、欲望。

まだ幼かったカノンの心には、重すぎた。


いつも怯えて、誰とも話せず、隅にうずくまっていた。


そんなカノンのそばに、帝はいた。


「……ボクが、そばにいたから、帝は一人じゃなかった……?」


「ちがうのだ。……オレが、そばに“いてやった”のだ」


「ふ〜〜ん。……そうだったかもね」


冗談のようなやりとり。

けれど、それは確かに、あたたかい記憶だった。


「ねえ、帝。」


「……なんなのだ……」


「僕を、ちゃーーーんとキャッチしてね?」


「は???」


次の瞬間、声が途切れ、周囲の景色が一変する。

森が、音もなく消えた。


視界が、ぐわりと開ける。


空。


「……え? え?????」


困惑する帝の耳に、再び聞こえる“あの声”。


「どこからか、あいつの声が……」


上を向いた。


「…………っ!」


カノンがいた。

笑顔で、手を振りながら──


ものすごい勢いで、急降下してきていた。


「キャッチできるかああああああああ!!!!!!!」


「あと少しで降りるからちゃんとキャッチしてね〜〜〜〜!!」


空から降ってきたのは──


光か、災難か。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ