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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第15章『終焉の茶会、双つの魂と試練の扉』

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05.雷の記憶と、問えぬ答え

森の奥は、静まり返っていた。


他の誰もいない、木々に包まれた深い深い場所。

カノンと別れた帝は、一人でそこへ向かっていた。


「………………あそこを……思い出すのだ」


足元の枝葉を踏みしめながら、帝は静かに呟いた。


──神の国の記憶。

まだ自分が“神”だった頃の記憶。


神の国では、“核”を持たぬ者は不完全な存在とされた。

帝もまた、その例外ではなかった。


神の核を持たず、ただ雷の力だけを宿していた帝は──

他の神々にとって、いびつで、目障りで、鬱陶しい存在だったのだ。


だから帝は、“選ばれていた”。


遊びという名の、拷問に。


──あの日もそうだった。

神力を封じられた状態で、魔物の巣窟に放り出された。


「運が良ければ、生き残れる」

「運が悪ければ、死ぬだけだ」


それが彼らにとっての“娯楽”だった。


見目麗しい天使や、核を持たぬ神々。

そんな“対象”たちが次々と送り込まれ、そして──消えていった。


帝もそのひとりだった。


「………反撃なんかしようものなら………もっと酷い目にあうのだ………」


それでも、一度だけ。

本当に一度だけ──反撃したことがあった。


獣のように打ち据えられ、泥にまみれ、痛みに耐えかねて。

その瞬間、感情の糸がぷつりと切れた。


「お前ら……喰らえ……!」


そう叫んで振り上げた手から、雷光が走った。

狙ったのは、自分を笑っていた神だった。


だが──その前に、別の影が飛び出した。


「………あ………」


光の中で、その姿を見た。

月だった。


帝の“お姉ちゃん”。

神の国で、誰よりも孤独だった存在。


「そいつを……庇って……」


彼女は、帝の雷をその身で受け止めたのだ。

ためらいなく。迷いなく。


「……………なんで………」


雷は彼を貫かなかった。

代わりに、彼の中に深く根を下ろした。


──それ以来、帝は“攻撃”ができなくなった。

誰にも。

何者にも。


魔物にも、敵にも。

そして今も。


「…………なんで………あの時、お姉ちゃんは……」


問いただしたい気持ちは、確かにある。

今でも、胸の奥が熱くなるほどに。


けれど──


「……お姉ちゃんには、記憶がないのだ……」


わかっている。

だからこそ、言えない。

言いたくて、言えない。


「………………ならば……オレも、問わぬのだ」


それは、覚悟でも諦めでもなく。

ただ、ずっと抱えてきた想いを──また、心の奥にしまい込むだけだった。

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