04.運と才能と、無自覚
「ん~~~~……高いなあ……」
森の奥で空を見上げるカノンが、ぽつりと声を漏らす。
遥か彼方──雲の切れ間に、浮かぶ島のような“何か”が見えた。
その輪郭はぼんやりとしていたが、魂の奥が確かに反応していた。
「あの高さまで、魔力切らさずに登り切る自信ないなぁ……」
飛行魔術には自信がないわけじゃない。
でも、あそこまで持続して魔力を維持するのは、想像以上に大変そうだ。
カノンはしばし空を見つめていたが──ふと、視界の端に光が差し込んだ。
「……ん? なにあれ?」
一筋の光。よく見ると、それは空へと伸びる“階段”だった。
けれど、それは透明で、ほとんど見えない。
よほどの集中力で魔力を練らなければ、気づくことすら困難なほど。
「……あの階段を登れってことね。僕の運じゃなきゃ見落としてたかも」
カノンは軽く首を傾げ、透明な階段の起点へと歩いていく。
「はあ〜〜……これほんとに見えないな。目に魔力を凝らして、よーく……っと」
瞳が淡く光る。
視界が魔力に敏感になったことで、ようやく足元に“踏み場”が浮かび上がった。
「でもま、僕のコントロール力なら余裕だね!」
そう言って、すっと息を吸い──そして、第一歩を踏み出す。
空に浮かぶ、魔力の階段。
だが、それは不安定な構造で、場所によっては魔力の層が薄く、崩れやすい。
(あ………場所によっては層が脆いね。間違えた段に乗ったら……真っ逆さま。ふ~ん)
カノンは楽しげに、それでも慎重に、階段を一段ずつ登っていく。
その足取りには、迷いも、躊躇いもなかった。
雲を抜け、光の中へ──
やがて視界が開け、空に浮かぶ“浮遊島”がその姿を現した。
澄み切った空気。微かに揺らめく大地。
島の中央には、不思議な光が漂っている。
魂の核を刺激するような、不思議な気配があった。
「……ここかあ。僕の、試練の場所」
カノンは立ち止まり、笑った。
──その頃。カノンの体内では。
「うんうん。すごいね〜すごいね〜〜〜〜!」
魂の奥深く。
“暴食の魔王の核”が、ひとりで感心しながら喋っていた。
「お願い……誰か気づいて……。暴食の魔王、ちゃんと覚醒してるのに……」
「ほんとはね、こういうときって、他の魔王が確認しに来るの。暴走してるかどうかって。
でも……誰も来ないんだけど!? ねぇ、なんで!?」
「ていうか、この子、なんで暴走しないの? え? して? してよ?」
「しかもコントロール力エグいし……なにこの子……天才……?」
小さな核が、カノンの魔力制御に感嘆しつつも、誰にも気づかれないことに孤独と困惑を深めていた。
──そして、カノンは空島の中心へと向かう。
無自覚のまま、誰よりも才能を宿しながら。




