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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第15章『終焉の茶会、双つの魂と試練の扉』

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02.静寂の森と魂の道標

扉の向こうに広がっていたのは、想像とかけ離れた“静寂”だった。


「………………思ってたのと、全然違う……」


森の入り口に立った一人の生徒が、呆然とつぶやく。

その言葉に、隣の生徒もうなずいた。


「うん……もっと、こう……荒れ果ててて、殺気立ってる感じかと思ってた」


しかし、そこにあったのは──緑豊かに広がる静かな森。


鳥たちのさえずり、小動物の跳ねる音。

暖かな日差しが木々の間から差し込み、風がやさしく髪を撫でていく。


「ここに……魔力石があるんだよね?」


信じられないというように、別の生徒が呟いた。

その言葉に誰も返事はしない。けれど、全員が同じことを考えていた。


──こんなに穏やかな場所で、本当に“死の試練”があるのか。


だがそのとき、ふと足が動く。

生徒の一人が、ほんの一歩だけ前へ出た。


──その瞬間。


「……っ!」


彼の表情が変わる。

言葉にはできない。理由も説明できない。

だが、はっきりと感じた。


“そこにある”と。


「……なんか、分かる。あっち……にある気がする」


他の生徒たちも、一人、また一人と動き始める。


「俺は……こっち、かな……」

「私は……あっち」

「……ここにいるのが、むしろ怖い」


まるで導かれるように、全員が異なる方向へと視線を向けていた。

誰かと相談するわけでもなく、自然と足が動く。


心の奥底で、“魂が引かれる方向”を感じ取っているのだ。


「……………よし!」


誰かの掛け声で、生徒たちが足を止める。

自然と輪ができる。


「絶対に、生きて帰るぞ!!」

「一週間後、学園で会おうな!!」


皆で円陣を組み、拳を重ねる。

それぞれが怖さを抱えている。だが、それでも笑顔を浮かべていた。


「……帝は?」


円陣を解いたカノンが、横にいた片割れへと問いかけた。


帝は少しだけ迷ったように視線を彷徨わせ──やがて、森の奥を指差す。


「あっち、なのだ……オレの魔力石は、あの先にある気がするのだ」


「そっかあ……」


カノンは笑って、ほんの少しだけ寂しそうに答えた。


今度は、帝の方が問いかける。


「カノン……お前は?」


カノンは、ふっと笑って、空を仰ぎ見た。


「僕はねぇ………………うん、あそこだね」


帝はその視線を追い──しばし沈黙した。


空の彼方。どこまでも高く、どこまでも遠く。

そんな場所を、カノンは“自分の道”として見据えていた。


「……気をつけるのだ」


「帝もね」


ふたりは軽く頷き合い、それぞれの道へと一歩を踏み出した。


誰もが、自分の“魂の在処”を探して。


そして、静寂の森は再び──しんと、音を呑み込んだ。

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