02.静寂の森と魂の道標
扉の向こうに広がっていたのは、想像とかけ離れた“静寂”だった。
「………………思ってたのと、全然違う……」
森の入り口に立った一人の生徒が、呆然とつぶやく。
その言葉に、隣の生徒もうなずいた。
「うん……もっと、こう……荒れ果ててて、殺気立ってる感じかと思ってた」
しかし、そこにあったのは──緑豊かに広がる静かな森。
鳥たちのさえずり、小動物の跳ねる音。
暖かな日差しが木々の間から差し込み、風がやさしく髪を撫でていく。
「ここに……魔力石があるんだよね?」
信じられないというように、別の生徒が呟いた。
その言葉に誰も返事はしない。けれど、全員が同じことを考えていた。
──こんなに穏やかな場所で、本当に“死の試練”があるのか。
だがそのとき、ふと足が動く。
生徒の一人が、ほんの一歩だけ前へ出た。
──その瞬間。
「……っ!」
彼の表情が変わる。
言葉にはできない。理由も説明できない。
だが、はっきりと感じた。
“そこにある”と。
「……なんか、分かる。あっち……にある気がする」
他の生徒たちも、一人、また一人と動き始める。
「俺は……こっち、かな……」
「私は……あっち」
「……ここにいるのが、むしろ怖い」
まるで導かれるように、全員が異なる方向へと視線を向けていた。
誰かと相談するわけでもなく、自然と足が動く。
心の奥底で、“魂が引かれる方向”を感じ取っているのだ。
「……………よし!」
誰かの掛け声で、生徒たちが足を止める。
自然と輪ができる。
「絶対に、生きて帰るぞ!!」
「一週間後、学園で会おうな!!」
皆で円陣を組み、拳を重ねる。
それぞれが怖さを抱えている。だが、それでも笑顔を浮かべていた。
「……帝は?」
円陣を解いたカノンが、横にいた片割れへと問いかけた。
帝は少しだけ迷ったように視線を彷徨わせ──やがて、森の奥を指差す。
「あっち、なのだ……オレの魔力石は、あの先にある気がするのだ」
「そっかあ……」
カノンは笑って、ほんの少しだけ寂しそうに答えた。
今度は、帝の方が問いかける。
「カノン……お前は?」
カノンは、ふっと笑って、空を仰ぎ見た。
「僕はねぇ………………うん、あそこだね」
帝はその視線を追い──しばし沈黙した。
空の彼方。どこまでも高く、どこまでも遠く。
そんな場所を、カノンは“自分の道”として見据えていた。
「……気をつけるのだ」
「帝もね」
ふたりは軽く頷き合い、それぞれの道へと一歩を踏み出した。
誰もが、自分の“魂の在処”を探して。
そして、静寂の森は再び──しんと、音を呑み込んだ。




