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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第15章『終焉の茶会、双つの魂と試練の扉』

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01.扉の向こうへ

学園の朝。


空は晴れ渡り、雲ひとつない青空が広がっていた。


しかし、そんな快晴とは裏腹に──校庭には、張り詰めた空気が漂っていた。


中等部1年生三十名が、整然と並んでいる。

一人ひとりの表情には、緊張と覚悟が宿っていた。


その視線の先に立つのは、光の魔力を纏ったひとりの少女──月である。


「皆さん」


月の声が、澄んだ空気に乗って校庭に響いた。


「今から、魔力石のある空間への扉を開きます」


生徒たちの間で、生唾を飲み込む音が聞こえる。

その瞳には、不安も恐れもある。だが、逃げる者はいなかった。


月は静かに続ける。


「この空間に入ったあと、期限は一週間です」

「一週間たっても戻ってこなかった場合──」

「……その生徒は“死亡”と判断し、ゲートを閉じます」


一瞬、ざわつく空気が生徒たちを包む。

だが、それも長くは続かない。


この危険については、すでに授業で繰り返し教えられていた。

皆、理解している。恐ろしいほどに。


「……だからこそ、私は言います」


月は静かに、けれど強く言葉を紡いだ。


「私は皆さんを信じます。……だから、ちゃんと帰ってきてください」


誰ひとりとして、うつむく者はいない。

声には出さずとも、生徒たちは力強く頷いた。


後方では、教員たちが黙ってその姿を見守っていた。


ミミは拳を握りしめ、グレンは無言のまま頷く。

シルフとカグラは、顔を見合わせて小さく微笑み合った。

橘は目を伏せ、柊はまっすぐに生徒たちを見つめていた。

エルフたちも、慣れぬ緊張の中で書類を持ったまま固唾を飲んでいる。


月は静かに、前へ出た。


足元に、光の魔力が収束していく。

指先から放たれた術式が、地面に複雑な魔法陣を描き出し──


次の瞬間、校庭に巨大な“扉”が出現した。


白く輝くその扉は、音もなく開かれていく。

その先に広がるのは、魔力石が眠る空間。

命を賭して挑む、生徒たち一人ひとりの“試練”が待つ場所。


「さあ……皆」


月は振り返り、柔らかく微笑んだ。


「頑張ってきてください」


誰からともなく、歩みが始まる。

一人、また一人と、生徒たちは扉の中へ進んでいく。


誰も言葉を発さず、誰も迷わなかった。

その背を、教師たちは静かに見送る。


やがて全員が扉の向こうへ消える。


月はその場で、静かに両手を合わせるように指を動かした。

扉が、音もなく閉じていく。


「……次に開くときは、生徒たちが戻ってくるときです」


その言葉に、教員たちはゆっくりと頷いた。


誰もが、ただ一つの願いを胸に抱いていた。

──全員、無事に戻ってきますように。


その扉の向こうには、それぞれの“命”が眠っている。

そして、それを掴み取るための“力”もまた、そこにあるのだった。

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