01.扉の向こうへ
学園の朝。
空は晴れ渡り、雲ひとつない青空が広がっていた。
しかし、そんな快晴とは裏腹に──校庭には、張り詰めた空気が漂っていた。
中等部1年生三十名が、整然と並んでいる。
一人ひとりの表情には、緊張と覚悟が宿っていた。
その視線の先に立つのは、光の魔力を纏ったひとりの少女──月である。
「皆さん」
月の声が、澄んだ空気に乗って校庭に響いた。
「今から、魔力石のある空間への扉を開きます」
生徒たちの間で、生唾を飲み込む音が聞こえる。
その瞳には、不安も恐れもある。だが、逃げる者はいなかった。
月は静かに続ける。
「この空間に入ったあと、期限は一週間です」
「一週間たっても戻ってこなかった場合──」
「……その生徒は“死亡”と判断し、ゲートを閉じます」
一瞬、ざわつく空気が生徒たちを包む。
だが、それも長くは続かない。
この危険については、すでに授業で繰り返し教えられていた。
皆、理解している。恐ろしいほどに。
「……だからこそ、私は言います」
月は静かに、けれど強く言葉を紡いだ。
「私は皆さんを信じます。……だから、ちゃんと帰ってきてください」
誰ひとりとして、うつむく者はいない。
声には出さずとも、生徒たちは力強く頷いた。
後方では、教員たちが黙ってその姿を見守っていた。
ミミは拳を握りしめ、グレンは無言のまま頷く。
シルフとカグラは、顔を見合わせて小さく微笑み合った。
橘は目を伏せ、柊はまっすぐに生徒たちを見つめていた。
エルフたちも、慣れぬ緊張の中で書類を持ったまま固唾を飲んでいる。
月は静かに、前へ出た。
足元に、光の魔力が収束していく。
指先から放たれた術式が、地面に複雑な魔法陣を描き出し──
次の瞬間、校庭に巨大な“扉”が出現した。
白く輝くその扉は、音もなく開かれていく。
その先に広がるのは、魔力石が眠る空間。
命を賭して挑む、生徒たち一人ひとりの“試練”が待つ場所。
「さあ……皆」
月は振り返り、柔らかく微笑んだ。
「頑張ってきてください」
誰からともなく、歩みが始まる。
一人、また一人と、生徒たちは扉の中へ進んでいく。
誰も言葉を発さず、誰も迷わなかった。
その背を、教師たちは静かに見送る。
やがて全員が扉の向こうへ消える。
月はその場で、静かに両手を合わせるように指を動かした。
扉が、音もなく閉じていく。
「……次に開くときは、生徒たちが戻ってくるときです」
その言葉に、教員たちはゆっくりと頷いた。
誰もが、ただ一つの願いを胸に抱いていた。
──全員、無事に戻ってきますように。
その扉の向こうには、それぞれの“命”が眠っている。
そして、それを掴み取るための“力”もまた、そこにあるのだった。




