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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第14章『終焉の茶会、魔力の予鈴が鳴る』

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10.静かな夜と、それぞれの決意

夏休み直前。


魔力石取得実習を翌日に控えた学園では、張り詰めた空気が静かに流れていた。


教室では、シルフとカグラによる最後の座学授業が行われていた。

内容は魔力コントロールの復習、魔術の基礎理論、そして明日から始まる空間内での注意点。


黒板に魔術式が描かれるたび、生徒たちの視線が釘付けになる。


「……この場合は、出力が一瞬でも乱れると術式が暴走する。制御には充分に注意するように」


シルフがいつも以上に丁寧な説明をすると、生徒たちは真剣な眼差しで頷いた。

その表情には、不安と緊張、そして微かな決意の色が宿っている。


「ふっふーん、オレはもう準備万端だけどな!」


ゴローが得意げに胸を張ると、横からクロマが肩をつつく。


「いや、あんたは関係ないでしょ。もう持ってるんだから」


「えー? でも応援くらいしてもいいじゃん」


「行かないってば」


万里も溜め息をつきながら微笑む。


「……ゴローにだけは応援されたくないって子、きっといるわよ」


教室のあちこちでささやかなやりとりが交わされるなか、カノンは机に突っ伏していた。

どうやら眠気には勝てなかったようだ。


「…………すぅ」


その隣では、帝が背筋を伸ばしてテキストに視線を落としている。


シルフとカグラは、張り詰めた教室の空気を感じながらも、生徒たちの成長を見守っていた。


* * * * *


放課後。


生徒たちはそれぞれの家へと帰っていった。

明日からの試練を前に、静かに“前日”を過ごす。


──ある少年は、母に向かって無理に笑いながら言った。

「……明日は、頑張ってくるよ」


──ある少女は、父と一緒に魔術訓練場へ足を運び、何度も魔力放出の練習を繰り返した。


──ある少年は、静かに机に向かい、自分でまとめた魔術ノートを何度も読み返した。


──ある小柄な生徒は、祖母の手作りの夕飯を口に運びながら、お守りを握りしめていた。


それぞれの家、それぞれの想いが、夜の帳に溶けていく。


* * * * *


夜、月の自宅。


月は職員室での業務を終えて帰宅すると、ゆっくりと茶を淹れ、明日の予定を一つ一つ確認していた。


「……地図、薬、印刷資料……魔力遮断結界の準備は……うん、よし」


静かに整理をしていると、カノンがふらりと眠そうな顔で現れた。


「姉さん……一緒に寝ていい?」


「はいはい。どうぞ〜」


微笑む月の隣には、すでに布団を引っ張っていた帝が無言で座っていた。


「……やっぱり、帝も来るんですね」


「当然なのだ」


月は苦笑しながら腕を広げる。


「仕方ないですねぇ、今日は特別です。ほら、おいで」


二人は素直に月の腕の中に入っていき、ぴたりとくっついた。


カノンがぽつりとつぶやく。


「……みんな、ちゃんと帰ってこられるかな……」


帝も続ける。

「帰ってこられるのだ……でも少し怖いのだ……」


月はふたりの頭を優しく撫でながら、静かに微笑んだ。


「大丈夫。あなたたちも、みんなも……明日をちゃんと乗り越えてくれると、私は信じています」


その言葉に安心したのか、ふたりは月の腕の中で静かに眠っていった。


* * * * *


夜が更ける。

月は眠る二人を見守りながら、ふと窓の外に目を向ける。


そこには、満ちた月が夜空に静かに浮かんでいた。


その光は、希望のように、優しく彼女たちを照らしていた。


「……明日、ちゃんと笑って……また、みんなに『おかえり』って言えますように」


小さくつぶやいたその言葉は、夜の静寂に溶けていく。


そして物語は、試練の日へと静かに歩を進めていくのだった。

次章

第15章『終焉の茶会、双つの魂と試練の扉』は、

9月30日 20時より投稿を開始します。


どうぞ、お楽しみに。

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