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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第14章『終焉の茶会、魔力の予鈴が鳴る』

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09.積み重ねた覚悟と、前を向く者たち

朝の職員室。


窓から射し込む光が、静まり返った空間をやわらかく照らしていた。


その中心には、きっちりと重ねられた書類の束。

それは中等部1年生30名分、魔力石取得実習への「保護者同意書」である。


シルフがそれを手に取り、一枚ずつ目を通す。

そして、隣で紅茶を啜るカグラに目を向けた。


「……カグラ先生のところも、揃ったんだ」


カグラはにっこりと微笑み、まるで他人事のように軽く返す。


「んふふ……まあねぇ………子供たち、よく頑張ったわ」


そのやりとりを聞きながら、月が自分の机に積まれた書類を丁寧に整える。

そして、静かな口調で報告した。


「はい、三十名分、きっちり揃いました。確認完了です」


しばし、室内に沈黙が流れる。

そして、誰からともなく、空気が少しだけ重たくなっていく。


セレナがぽつりと口を開いた。


「二年間……やってきましたけど、慣れませんね……こればかりは」


ラットンが同意するように頷き、低い声で続ける。


「命を預けているはずの学校で……命を落とすかもしれない授業を行うのだから……当然といえば当然なのだが」


ミミは緊張した面持ちで、不安げに手を握りしめながら言葉を継いだ。


「あたし……魔術の適性が無いからよくわかんにゃいけど……怖いね……。ほんとに……」


グレンは何も言わず、ただ重々しく頷く。


橘も小さくため息を吐いて、そっと漏らす。


「信じるしかないって……辛いです……」


教師たちの視線が、自然と月へと向かう。


その中心で、月は一つ深く息を吸い込み、真っ直ぐに彼らの目を見つめながら語り出した。


「魔力を扱うことを教える学校は……ほとんど存在しません。

魔力に飲まれて命を落とす子……正しい力の使い方を知らないまま、暴走してしまう子……。

そういう子たちを守るために、私たちが教えなくてはいけないんです。

……私たちは、立ち止まれません。前に進むしか、ないんです」


その声は静かで穏やかだった。

だが、一切の迷いも、揺らぎもなかった。


それを見守っていた、教室の隅にいたエルフの教師が、静かに目を伏せる。


(……これが……教師という者たちの覚悟……)

(我々は……思い上がっていたのかもしれない……)


月は再び、机の書類の束に視線を落とし、それを丁寧に整え直す。

その手は確かな意志をもって動き、まったく揺れない。


視線の先には、まだ見ぬ未来。


そしてそのまま、静かに場面は暗転する。

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