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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第14章『終焉の茶会、魔力の予鈴が鳴る』

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08.許可と覚悟と、家族のサイン

夕暮れの空に赤みが差すころ、生徒たちは一斉に校門を出ていった。

手には「魔力石取得実習」の保護者同意書。

顔には、不安、緊張、諦め、期待……さまざまな感情が混ざり合っていた。


* * *


人間の少女──生徒Aは、自宅の扉を開けてすぐに母親へ書類を差し出した。


「お願い。これにサインして。どうしても行きたいの」


少女の目は潤んでいた。

それを見た母親は、きっぱりとした声で応える。


「……ダメ。危険すぎるわ。あなたに何かあったら、お母さん──」


「行かせてよ!!」

少女は、思わず叫んでいた。


「私、本気なの! この学園で……ちゃんと魔術師になりたいの!」


母親は数秒、黙って娘を見つめ──やがて深いため息をついた。


「……本気なのね」


少女は頷く。

母親は書類に目を通しながら、最後にこう言った。


「なら……無事に帰ってきて。お願いだから」


少女の目から、涙がこぼれ落ちた。


* * *


生徒B──猫の耳を持つ獣人の少年は、豪快な父親と静かな母親のもとへ戻った。


「ただいま。これ、学園から」


「ほう! 試練か!」

父親は書類を見るなり豪快に笑った。


「男なら一度は通る道だな!」

「……うん、頑張る」


横で見ていた母親が、少し寂しそうに微笑む。


「……行ったら、1週間は会えないのね」

「せめてもの気持ちに、お弁当……作っておきたいけど、空間の中じゃ食べられないのよね……」


少年は小さく頷いた。


「うん……でも、ありがとう。気持ちだけでも、ちゃんと受け取る」


母親は優しく息子を抱きしめた。

父親は笑いながらサインを記し、背中をどんと叩いた。


「心配いらん! お前ならやれる!」


* * *


ドワーフの少年──生徒Cは、帰宅と同時に元気な声をあげた。


「かーちゃん! とーちゃん! オレ、試練に行くって!」


「おお、ついにか!」

「よし、さっさと石拾ってこい!」


父親は豪快に笑い、母親もノリノリだった。


「終わったら伝説の鍛冶師に頼まないとな!武器にしてやるからな!」


「うっす!」


* * *


一方、万里、クロマ、ラミリス、ゴローの四人はギルドで過ごしていた。


既に魔力石を取得済みの彼らは、書類提出の必要はない。

だが、月から「念のため確認を取っておいて」と念押しされていた。


「まあ、問題ないっしょー」

クロマが肩をすくめる。


「だと思うけど……一応、家には伝えておこうかな」

万里も軽く頷いた。


「ぼくは孤児だしな……まあいいか〜」

ラミリスは寝転がりながらプリントを指で弾く。


「オレ……家、ないんだけど……」


ゴローのひと言に、三人は静かになった。


* * *


夜の職員室。

窓の外には、星が静かにまたたいている。


誰もいない空間に、紙の音が響く。

机の上に並べられた2通の保護者同意書。

そこには──「帝」と「カノン」の名前が並んでいた。


その書類を見つめながら、月はしばらく沈黙していた。


やがて、静かにペンを取り上げる。


「この子たちに……未来があるなら」


さらさらと、力強くも迷いのない筆致で、月はサインを書き込んだ。


* * *


最後に、月は職員室の天井を見上げた。

そこには何もない。ただ、夜の闇が広がるだけ。


しかしその瞳は──どこか遠く、誰かの明日を見ていた。

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