09.完成、終焉の茶会
「これで……とりあえず、完成〜」
カノンが手にした最後の板を屋根に打ち付けると、パチンという音が響いた。
仮拠点だった建物は、簡素ながらも“ギルド”と呼べる体裁を整えていた。
「見て見てっ!」
クロマが自作のカウンターに身を乗り出す。
「ここに依頼票を貼って、こっちにごはんを出して……!」
「その順番、間違えると大惨事だよ」
月がハンマーを下ろしながら、完成したばかりの炉の温度を確認する。
「でも、仮設としては悪くない。材料も、足りてる」
「オレの幸運が、いい感じの木材を引き寄せたのだっ!」
帝がふんすと胸を張った。
「……それ、たまたま瓦礫の下に埋まってただけだよね」
「運も実力なのだっ!」
食堂スペースには、拾い集めた椅子やテーブルが並べられ、
寝床として使える仮ベッドも、それなりの数が用意された。
全員が手を止めたそのとき、マスターが一枚の板を抱えて現れた。
「じゃーん! 看板、できましたっ!」
「何書いたの?」
月が尋ねると、マスターは板をくるりと裏返す。
「終焉の茶会!」
その文字は、不格好で、焼け跡の中から拾った板に雑に書かれていた。
けれど、それが逆に“この場の再出発”をよく表していた。
「じゃあ、設置するね~!」
クロマがぱんっと手を叩き、看板を取り付ける準備に入る。
「……ほんとに、またこの名前でやるの?」
カノンが半ば呆れながらも支える。
「壊れたのは建物。名前は、残ってる」
月は釘を打つ手を止めずに答えた。
「ギルド・終焉の茶会、再起動っ!」
マスターが満面の笑みで叫んだ瞬間、風が吹いて看板がかすかに揺れた。
誰も何も言わず、それをしばらく見つめていた。
その夜。
全員で囲んだ簡素な食卓には、派手な言葉も特別な儀式もなかった。
あるのは、火の周りで交わされる、当たり前のような笑い声だけ。
月は火加減を見ながら、ぽつりと呟いた。
「……次は、棚」
「まだやるのか……」
呆れた声と笑いが重なった。
“再出発”は、静かに、でも確かに始まっていた。




