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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第14章『終焉の茶会、魔力の予鈴が鳴る』

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05.天と地と、海の底と

屋内プールには、今日も春のやわらかな光が差し込んでいた。

立ちのぼる蒸気と、水面を照らす反射光が幻想的に揺れている。


プールサイドには、昨日に引き続き中等部1年生たちが整列していた。

実技授業2日目。

生徒たちは緊張の面持ちで、自分の足元に意識を集中している。


水音がわずかに響くなか──


「みんな下手くそだなぁ……」


ぽつりと、教室の隅から聞こえた呟きが静寂を破った。


それはカノンだった。


すたすたと前に出たかと思うと、彼はそのまま水面を歩いて渡りはじめた。


「僕にとってはこんなの朝飯前!」


彼の足元には、魔力の膜が滑らかに展開されている。

波紋ひとつ立てずに、まるで地面を歩くかのような安定感だった。


「すご……」


シルフが純粋な驚きを漏らす。


「ほう……」


エルフの教師も興味深げに目を細めた。


帝はジト目でそれを見ていた。


「相変わらずのコントロール力なのだ……忌々しい……」


そんな視線も気にすることなく、カノンはさらに調子に乗る。


「使いこなせれば、こんなこともできるよ〜!」


そう言うと、彼は宙に浮き上がり、逆さまに歩いたかと思えば、空気を階段のように使って上り下りし始めた。


生徒たちはどよめき、歓声が上がる。


「いやあ……本当にすごい」


シルフは乾いた笑いを浮かべた。


「……すごい芸当だな」


エルフの教師も思わず感心する。


「ウザいのだ……」


帝は呆れたように呟いた。


やがて、生徒たちはカノンを取り囲み、いっせいに質問を投げかけた。


「どうやるの!?」「私もやりたい!」


しかし──


「………えっと…こう……ぐあああって………」


カノンは腕を組みながら、身振り手振りで説明を試みたが、まったく要領を得ない。


「………………」


生徒たちは困惑の表情を浮かべ、カノンは得意気に胸を張るだけだった。


そのときだった。


「やってますね〜」


穏やかな声と共に、職員室から月が姿を見せた。

彼女は柔らかく微笑んだまま、生徒たちの輪の中へ入ってくる。


「この魔力コントロールが完璧にならないと、中等部2年生にはなれませんからね」


その一言で──場の空気が一変した。


「はああああ!?!?!?」


新入生たちが一斉に叫ぶ。


「うん、知ってた。だから、留年したんだ」


留年組は妙に冷静だった。


「いや!!誰がそんなこと決めたの!?!?」


「私です」


月がさらりと返すと、万里・クロマ・ラミリスの三人が同時に叫ぶ。


「横暴だ!!!」


堪えきれなくなった帝が、爆弾を投下する。


「お姉ちゃんだって魔力コントロールできないくせに!!」


「……………なんて??」


生徒たちが静まり返る。


「姉さんは、魔力コントロールできないよ」


カノンは当然のように補足した。


生徒たちの怒号が飛ぶ。


「ずるい!!」「なんで!?」「理不尽!!」


そのとき──


月は無言でプールサイドへ歩き出した。


魔力の気配が広がる。

静かな、けれど圧倒的な力が場を満たす。


次の瞬間、プールの水が音もなく真っ二つに割れた。


水が壁のように左右へ開き、底が露わになる。


その中央を、月はまるで舞うような足取りで、ゆっくりと歩いていく。


「私は、大陸の端から端まで魔力切れを起こすことなく、海を割り歩くことができます」


「皆さんは、こんなことできますか? できないでしょ? というわけで……やれ」


誰もが、口を閉じたまま、ぽかんと彼女を見つめていた。


シルフは肩をすくめ、乾いた笑いを浮かべる。


「……いや、もう……何も言えない」


エルフ教師は、静かに首を横に振った。


ただ一つだけ──確かなのは、今日もまた、生徒たちの心に大きな衝撃が刻まれたということだった。

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