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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第14章『終焉の茶会、魔力の予鈴が鳴る』

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04.水面を渡れ

春の陽光が、天井のガラス越しに柔らかく射し込んでいた。

屋内プールには薄く蒸気が立ちこめ、水面がきらきらと揺れている。


生徒たちは二列に整列し、今日の実技授業を前にそわそわと身じろぎしていた。

中等部1年生たちの列はにぎやかだが、その隣──留年組の面々はやけに暗い顔で黙りこくっている。


「……あああ……またこの授業……」

「思い出したくもない……」


そんなつぶやきが風に乗って届いてくる。


「まさか……」


万里が目を細めて留年組を見やる。


「うん、たぶん……嫌な予感しかしないんだよ」


クロマが肩をすくめる。


「ギルドで昔やった、あれ……だよね」


ラミリスも目を伏せた。


「…………嫌な授業なのだ……」


帝が遠い目をしてつぶやく。


「え? 今日は泳ぐのか?」


ゴローが不思議そうに首をかしげた。


「どうしたの? 帝」


カノンが無邪気に問いかける。


* * *


やがて、教員陣が姿を現した。


「これより魔術コントロールの授業を行う。今回は二クラス合同で実施する」


シルフが前に立ち、厳かな声で告げる。


「実技補助として、エルフの先生方にご協力いただきます」


カグラが続けると、生徒たちの間にどよめきが広がった。


「先生……これ、まさか……」


万里が低く問いかける。


「なんだ?」


「足の裏に魔力を均一に溜めて……プールの水面を渡れってことですよね」


にやりと、シルフの口角が上がった。


「よくわかったな」


「やっぱりなんだよ!」


クロマが頭を抱える。


「ギルドでも昔やったな!」


ラミリスが叫ぶ。


「成功したことないけどね!」


万里が冷静に言い放つ。


「オレ、やったっけ?」


ゴローが首を傾げる。


「なんで覚えてないんだよ!!バカ!!」


三人が揃って叫んだ。


* * *


エルフの教師が、静かに前へ出る。


「このように、足裏に魔力を集中し、均一な出力で水の上を歩く」

「出力が弱すぎれば沈む。強すぎれば弾かれる」

「必要なのは、ただ一つ。いい塩梅だ」


その言葉どおり、教師はすっと水面へ足を乗せた。

足元から波紋一つ生じさせることなく、滑るように数歩を進んで岸へ戻る。


生徒たちの間に、感嘆のどよめきが広がった。


* * *


いよいよ実技が始まった。


次々と水面へ挑む生徒たち。

沈む者、跳ねてしまう者、惜しいところまでいく者……。


その中で、猫の耳としっぽを揺らした小柄な少女が、一歩を踏み出した。


「……出来る……絶対に……濡れたくない……」


自分に言い聞かせるように、少女は静かに一歩目を進める。

二歩目……水は揺れるが、沈まない。


三歩目に差し掛かった、その瞬間だった。


ぴしゃり。


足先が沈みかける──が、彼女は反射的に大ジャンプを繰り出した。


「いやあああ!!! ぬれたくなぁぁぁぁい!!!」


その跳躍は常識を超えていた。

プールの向こう岸まで、弧を描いて飛び──水しぶきと共に着地。


……一瞬の静寂。


ぱちぱちぱち、と拍手。


「……理論的には正しい。よく跳んだ」


エルフ教師が真顔でうなずく。


「執念だな……」


シルフも感心したようにぽつりとつぶやいた。

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