03.魔術座学、四天王と二匹のバカ
「この魔術式における属性変換ですが──」
シルフの説明が、黒板に流れるような魔力式とともに続いていた。
教室は整然とし、生徒たちの集中した視線が注がれている。
その中、教壇に立つシルフは、振り返りながら問いかけるように黒板を指差した。
「これは、どのように変換効率を高めればいいでしょう?」
「術者の意識の流れと属性の相性によって効率が変わります」
即座に答えたのは万里だった。
「たとえば炎属性だと、最短式で三工程省略できるんだよ」
クロマも自然に言葉を継ぎ、チョークを取って隣に補足の式を書き加える。
「氷と風は相殺式が便利だよなー。無詠唱対応も楽になるし」
ラミリスの補足に、教室がざわついた。
まるで予習を済ませた上級生たちのような知識量。
「……はい、正解」
シルフが苦笑する。
ゴローがぽつりと。
「オレ、なんにもわかんねえ……」
誰も驚かない。
むしろ、それが“日常”のように受け止められていた。
「この変換式、旧大陸式の名残が見えるのだ。なるほど……懐かしいのだ……」
帝が机上のノートをなぞりながら、遠い目をする。
「ぼくも懐かしいって言いたい!」
カノンが勢いよく手を挙げるが、すぐ隣の帝と比べると空虚な響きしかない。
シルフが両者を見比べ、深く溜め息をついた。
──同じギルド所属でも、ここまで知識の差があるなんて……。
それにしても、帝くんとカノンくん……どうしてこうも差が……。
* * *
休み時間。
生徒たちがぞろぞろと席を離れ、三人のまわりに集まりはじめた。
「この術式ってやっぱり難しいですか?」
生徒の質問に、クロマが優しく笑いながら答える。
「んー、慣れれば平気なんだよ。感覚で覚えるといいんだよ」
「先生の説明よりわかりやすい……」
生徒の小声に、シルフの耳がぴくりと動いた。
──……この状況、授業進行がラクすぎる。
まさか……これも最初から計算して配置したっていうのか?
不安と安堵が混じるようなモノローグを胸に、彼女は教室をあとにした。
* * *
職員室。
資料を抱えて戻ってきたシルフを、いつものように月が迎えた。
「お疲れ様です。今日はどうでしたか?」
明るく笑顔を浮かべる月。
その無垢な顔を見た瞬間、シルフの肩から力が抜ける。
「……………………はあ…………あんたって人は……本当に………」
月は首をかしげたまま、「???」という顔でただ見つめていた。




