02.ようこそ地雷トリオ
朝の教室は、まだ緩やかなざわめきに包まれていた。
生徒たちが思い思いの席で雑談を交わし、教科書を広げたり、うとうとと眠気と戦っていたりする。
そこへ──音もなく教室のドアが開いた。
「入るよ」
浮かぶ風の精霊、シルフの声が短く響いた。
その背後に続くのは、三人の異なる空気をまとった人物たち。
万里、クロマ、ラミリス──
マスターからの厳命により、強制的に編入された三人だった。
その姿を見た途端、真っ先に立ち上がったのは、教室の奥に座っていたゴローだった。
「なんで?!」
教室にいた誰もが、一斉に三人へ視線を向けた。
……しかし、三人は一言も発さなかった。
揃って無言。
まるで“ゴロー”という存在そのものが視界に入っていないかのような反応。
シンとした空気が教室を満たし、微かなざわめきが静まっていく。
ゴローは呆然としつつ、自席へと座り直した。
シルフが前に出て、手を叩く。
「はい、それじゃあ……ちょっと静かに。新しく編入してきた三人を紹介するよ」
生徒たちは反応に迷いながらも、なんとか視線を前へ向ける。
「じゃ、自己紹介を。属性も含めて簡単に」
シルフに促され、三人が順に前へ出る。
万里が一歩進み、冷たい表情のまま口を開いた。
「万里です。属性は氷」
そのまま何の感情も込めず、一礼もなく席に向かう。
次にクロマが、やや控えめに手を上げて微笑む。
「クロマだよ。属性は炎だよ」
声は柔らかいが、どこか距離を置いた響き。
彼もすぐに席へ向かう。
最後にラミリスが、やや前かがみで寝癖を気にしつつぼそっと言う。
「ラミリスだ。属性は炎だ」
そのまま、眠そうに目を擦りながら一番後ろの空いた席へ座る。
三人の挨拶はあまりにも簡素で、あまりにも感情がない。
教室内には重たい緊張が、かえって増幅していった。
シルフが深くため息をつく。
「……はい。というわけで、新しい仲間が増えたので皆、仲良くするように」
微妙な反応を示す生徒たち。
その中で、一人の少年が立ち上がった。
「……姉さんが………なんかごめんね」
立ち上がったのはカノンだった。
シルフが少し目を細める。
「うん………もう慣れた」
「もし、あまりにひどかったら、黙れこの穢!!って言えばいいからね」
「いや、むり」
教室に、くすっとした笑いが漏れた。
一瞬だけだが、張り詰めていた空気が緩む。
だが、シルフの目は完全に笑っていなかった。
チャイムが鳴る。
授業の始まりを告げる音。
三人はそれぞれ無言のまま着席し、周囲の生徒たちとも目を合わせないまま、静かに1-Aでの生活を始めた。
シルフは教壇の前に立ち、黒板にチョークを走らせながら、小さく呟いた。
「……頼むから、もうこれ以上は増やさないでくれ……」
その声が教室に届くことは、なかった。




