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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第14章『終焉の茶会、魔力の予鈴が鳴る』

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01.始まりの三人

朝の職員室は、いつも通りの慌ただしさに包まれていた。


開いたままの資料が山のように積まれ、カップから立ち上る湯気の香りが、かろうじて一日の始まりを思い出させてくれる。


月はその中央で、膨大な書類を手際よく仕分けしていた。

教員たちはそれぞれ登校準備に追われ、誰一人として無駄口を叩く余裕はない──はずだった。


「…………?」


不意に、扉がノックもなく音もなくスッと開いた。


視線が集まる。

静寂が降りる。


「おはようございます」


先頭に立っていたのは万里。

そのすぐ後ろにはクロマとラミリスが並んでいた。


ギルドから派遣された三人。

だが、その登場はあまりにも唐突で、そして重苦しい沈黙を連れていた。


「──待ってました。御三方」


月がぱっと顔を上げ、にこやかに言った。


「マスターからの依頼で──中等部へようこそ!」


万里が嫌そうに眉をしかめる。


「……なんであたしたちが、こんな……」


クロマもため息交じりに首を振った。


「依頼っていうけど……これは仕事じゃないんだよ」


ラミリスは眠たそうに欠伸をしながら、ぼそり。


「ボク、夜勤明けなんだけどな〜……」


月はにっこりと笑って、朗らかに言い放った。


「というわけで、3人のクラスですが──面倒くさいので、ゴローさん、帝、カノンと同じクラスです!」


一瞬の間をおいて、教員たちがどよめく。


「中等部1-Aへ行ってください!」


「ちょっと待て! 初耳だが?!」


突然声を上げたのは、風の大精霊シルフだった。

浮遊したままこちらへ詰め寄る。


「報連相って知ってる?」


「あ、すみません。大事なこと言うの忘れてました……」


「……なに」


「3人とも、魔力コントロールは下手です」


シルフの動きが止まり、ぴたりと静寂が落ちる。


橘が遠くの席で、静かにぼやいた。


「……マジか……」


──場面は廊下へ移る。


無言のままシルフが3人を連れて職員室を出ていった。

足音だけが響く中、しばらく誰も言葉を発しない。


教室の前でようやく、ラミリスが小声で呟く。


「ねえ、今の先生、もしかして怒ってた?」


「いや、正しい反応なんだよ……」


クロマがぽつりと答え、万里は大きくため息をついた。


「……はぁ……最悪」


──その頃、職員室では。


教員たちが静かに、去っていったシルフの背中を見送っていた。

残された空気は重く、微妙な緊張が張り詰めている。


エルフ教員の一人が、険しい視線を月へと送る。

その様子に、カグラが口元を歪めた。


「えげつない配属ねぇ……」


橘も手元の資料をぱたんと閉じて、肩を落とす。


「ていうか、あの3人、まともに授業受ける気あるんですか?」


「大丈夫ですって〜。なにごとも経験ですよ〜」


まるで文化祭の準備でもしているような調子で、月は笑って返した。


誰もが疲れたように、自分の席へと戻っていく。


けれどその中で、月だけは一人、どこか楽しげに目を細めていた。


──始まりの鐘は、もう鳴っている。

この学園の「日常」は、まだ静かに、しかし確かに動き始めていた。

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