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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第13章『終焉の茶会、魔王は微笑む』

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10.本性と適性と、日常と

春の空気がほんの少しだけ緩んできた朝、エルミナ学園の職員室には、いつものように慌ただしい空気が流れていた。

だが、その一角には異質な静寂があった。


「……エルフさんたち、そろそろお仕事には慣れました?」


いつもの柔らかい口調で、月がにこやかに声をかける。

その微笑みは、ほんの一週間前に高位魔法を跳ね返し、黒い炎を操っていた者とは思えないほど無垢で穏やかだった。


「……まあ…………なんとか……」

「……しかし、この……書類の山は……終わらない……」


エルフたちの顔には、どこか生気が欠けていた。

幻想の森に住まう誇り高き民とは思えぬ、現実に打ちのめされた者の表情だった。


「なーに言ってるんですか〜? エルフさんたちの授業、今はほとんど無いんですから、他の先生のサポートが主なお仕事ですよ? 慣れてくださいねっ」


柔らかな笑顔のまま、月は黒い笑顔で言い放つ。

その声に込められた圧力は、書類より重い。


「……貴様、そんなことを言っていると……そのうち、教育委員会が……!」


「教育委員会なんてもの、この国には存在しません〜。労働基準監督署も、PTAも、存在しません。……あ、あと教職員組合も無いですね。煩わしいでしょう?」


軽く肩をすくめて、まるで天気の話をするかのように告げる月。

もはや現実逃避も許されないと悟ったのか、エルフたちは目をそらした。


「……我々の里に来た時は……あんなにしおらしかったと言うのに……。それが本性か?」


「………………さ、仕事仕事〜」


そそくさと書類の束を手にし、足早に立ち去る月。

その背中は、どこか楽しそうですらあった。


「聖女ちゃん、そんな奴らに構ってないで、俺にも構ってよ〜」


鬼影がデスクの上から身を乗り出すようにして声をかけた。


「はいはい」


「釣れないなぁ〜……冷たいぞ〜、月ちゃん」


そのやり取りに割って入るように、夜行が静かに声をかけた。


「月……無理はするな」


「はいはい〜」


「……聞く気ないな?」


月はにっこりと笑って、何も答えなかった。

その笑顔は、柔らかく、どこまでも無垢で。

けれど、どこか恐ろしいほどに静かな異質さを含んでいた。


エルフたちは、その横顔を見つめながら、胸の内で静かに呟く。


(……なるほど……どちらも“本性”か……)


血も流すことなく、命令もせず、ただの笑顔で世界を支配する。


それが、エルミナ学園の“聖女”──月、という存在だった。

次章

第14章『終焉の茶会、魔力の予鈴が鳴る』は、

9月20日 20時より投稿を開始します。


どうぞ、お楽しみに。

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