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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第13章『終焉の茶会、魔王は微笑む』

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02.春の刺客、エルフ現る

朝から、職員室は騒然としていた。


明日はいよいよ入学式。

学園にとって新たな一年が始まる、その大事な一日前。

だが、静寂とは程遠いその空間には、慌ただしく紙をめくる音と、あちこちから飛び交う声が響いていた。


「備品は確認済み? あっちのクラス分け表、もう一度チェックしておいてにゃ!」


「机の配置、微妙にずれてます! 1センチ右に詰めましょう!」


「だーっ、ラットン先生、そこにネズミチーズ置かないでくださいってば!」


教員たちはそれぞれの担当分野で奔走していた。

初等部、新設の中等部、それぞれの教室整備や資料の配布準備。

そのどれもが、間に合わせ仕事では許されない“式典前日”の現実だった。


そんな混乱の中心にいるのは、いつものように、事務作業の全責任を背負った一人の少女──月。


「はいはーい、名札の予備はこちらにまとめてありますよ〜! あ、契約書の提出は今日中でお願いしますね〜!」


彼女はいつにも増して俊敏だった。

資料を小脇に抱え、誰かに指示を飛ばしながら、必要書類をあちこちに配っていく。

しかしその表情は、ほんの少し、引きつっていた。


(やばい……時間が、足りない……)


焦りと疲労はすでにピーク。

睡眠時間は、たしかここ数日で三時間を切っていたはずだ。

しかし、それでもやるべきことは山積みだった。


──そんなときだった。


「……失礼する」


硬い声と共に、玄関の扉が開く。


一斉に視線が集まった。

現れたのは、長身の男女数名。尖った耳と整った容姿。

一目でそれとわかる――エルフたちだった。


「……エルフ、だと?」


グレンが無言のまま立ち上がり、カグラが眉をひそめる。

以前から非協力的だった種族。その代表が、今になって姿を見せるとは。


一瞬、空気が凍った。


だが、最初に口を開いたのは、先頭に立つ一人のエルフだった。


「我らは族長の命により、教員として派遣された者だ。ここ数年の観察の末、子供を預ける可能性を検討している。その前段階として、まず我らが様子を見極める」


端的な説明に、誰もが一瞬言葉を失う。


しかし。


「……あ〜〜〜〜のさあ!!!」


突如、月が声を荒げた。


「このクソ忙しいタイミングで送り込んできたなテメェのところの族長ォ!!!」


職員室全体が凍りついた。


「……っ、月先生!?」


「お、落ち着いて!」


橘と柊が慌てて駆け寄る。


「あっ、ちがっ、今のはその、ちがうんですよ? ほんとうは……!」


月は青ざめながら口元を押さえる。


(わあああああ!! ほんとうですか?! うれしいです。ありがとうございます! って言いたかったのに!!)


慌てて顔を上げた月は、なんとか笑顔を作りながら言い直す。


「……な〜んてね。冗談です。来てくれてありがとうございます〜!」


差し出された手。

だが、エルフの代表はそれを見もせず、冷たく言い放った。


「馴れ合いのつもりはない。命令で来ただけだ」


ぴしゃり、と切り捨てられる。


だが、月は気にする様子もなく、笑顔のまま。


「ではこちらにサインをお願いしますね〜。」


そう言って差し出した書類に目を通したエルフの一人が、微かに眉をひそめる。


「“月月火水木金金”……毎日8時から18時……?」


「はいっ。学園は現在、教員不足ですので。まあ最初から協力してくださっていれば、ここまで過密にはなりませんでしたけど?」


笑顔のまま、月が続ける。


「ちなみに、ハイワークにも求人出してますし、学園のホームページにも採用情報載せてますよ? 族長さん、把握した上で派遣してくださったんですよね〜?」


沈黙。


エルフたちは一瞬目を見合わせたが、やがて無言でサインを記入すると、無言のまま立ち去った。


……その場に、妙な静けさが残る。


やがて、柊がぽつりと呟いた。


「……なあ、月。今“ホームページ”って言ったか?」


「……ちょっと待ってください、それ、本当に初耳なんですけど」


橘が冷静にツッコミを入れる。


「えっ!? 前に言いましたよ〜。あ、ちなみに1年前から学園のホームページに載せてますし、求人ページもちゃんと設置済みです!」


教員一同「情報共有しろおおおおおおおおおおおお!!!!!」


職員室が怒号に包まれた。


それでも、月はどこ吹く風と笑みを浮かべていた。

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