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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第13章『終焉の茶会、魔王は微笑む』

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01.進級と再編、春の知らせ

春の陽が差し込む職員室には、のんびりとした空気が流れていた。


──春休み、終了まであと二日。


本来ならば子どもたちの姿もなく、束の間の静寂が訪れるはずの学園内。

しかし、職員室には何人もの教師が集まり、それぞれの持ち場で作業に追われていた。


教科書の山とプリントの束。進級処理に備品の整理。

見渡せば、誰もが手を止めることなく、淡々と準備にいそしんでいる。


そんな空間に、ひょっこりと銀髪の少女が姿を見せた。


「本日は〜、新年度のクラス編成のご案内でーす」


にこやかな笑顔と共に現れたのは、学園事務を一手に担う少女──月だった。

白金の瞳をゆるく細めながら、くるくると丸めた紙束を手にしている。


「えーとですね、新しい編成表はこっちに貼りますね〜」


掲示板の前に立つと、手際よく数枚の紙を広げて貼り付けていく。

その瞬間、休憩していた柊と橘が目を留めた。


「お、来たか。どれどれ……お、うちのクラスは――え? 二組?」


「中等部一年、二クラス体制……? え、担任が……カグラ先生と、シルフ先生……?」


「あはは、急に生徒数が増えちゃって。お二人には事前に了承いただいてますので〜」


さらっと流す月に、柊は苦笑いを浮かべた。


「そういや、春休みの前に話してたっけな。けど、まさか本当に増えるとは」


「ようやく進級、ですからねぇ」


掲示板を見ながら、ミミが呟いた。


「中等部二年、十名か……あたし、ほんとに心配してたんだからにゃ」


グレンが無言で小さく頷く。


「一年かけて、ようやく十人全員が進級。感慨深いですねぇ」


神崎が椅子から軽く身を乗り出し、楽しげに口を開く。


「ふぉっふぉっふぉ、まさか全員がちゃんと進級できるとはのう……わしは途中で何人か消えるかと思っておったわい」


柔らかな笑みと共に語られる老人口調に、周囲は苦笑いを浮かべる。


「そういえば、進級の基準って何なんですか?」


ふと橘が問いかけると、柊も首を傾げる。


「確かに。俺たち、テストとか見た覚えないんだけど……?」


「あれ? 説明してなかったでしたっけ?」


月はそう言いながら、紙束を片付けつつ振り返る。


「進級の条件は、魔力コントロールがちゃんとできることですよ〜。魔術師としての基本ですから」


「なるほどにゃ。暴走されたら困るにゃ」


「ですです。暴走すると危険ですから、そこだけは厳しめにしてるんですよ〜。えへへ」


のんびりとした口調で語る月に、神崎が肩をすくめる。


「うむ……月先生というのは、考えてなさそうで、ちゃんと考えておるのう……油断ならんぞい」


「ほんとにゃ。あたし、てっきりその場の気分かと思ってたにゃ」


グレンは静かに頷いたまま、言葉を発することはなかった。


「みなさんの信頼に応えられて光栄です〜」


月がにこにこと頭を下げると、職員室にわずかな笑いが広がった。


しかし、その空気を切るように月が口を開く。


「なお、新しい担任の発表は――始業式当日のお楽しみです〜」


「……お楽しみ?」


「って、オチそれかよ!」


柊が叫び、橘が眼鏡を押し上げた。


神崎は肩をすくめ、ミミとグレンは顔を見合わせる。


「……また振り回されそうだにゃ」


「…………」


グレンは何も言わず、小さくため息をついた。


教師たちの間に、なんとも言えない空気が漂い――


春の訪れと共に、エルミナ学園の新たな一年が静かに幕を開けようとしていた。



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