08.暴食の魔王、覚醒……してました?
静まり返った深夜。
ふわふわとした夢の中、遠くから声が響いてきた。
「……もっと……いっぱい食べようよ……」
しかし、その声に応じる者はいない。
布団にくるまれたカノンは、気持ちよさそうに寝息を立てている。
「すやーーーー」
「え??? いや、起きて? 聞いてる? ねえ?……おーい?」
どこかで誰かが、必死に呼びかけている。
だがその声は、誰にも届かない。
――暴食の魔王の核が、必死にコンタクトを取ろうとしているとは、当の本人すら知らないままだった。
翌朝。
村の周辺に、微かな殺気が漂っていた。
「……魔物の気配がするのだ」
帝が空を仰ぎながら、低く呟く。
そのすぐ隣で、カノンは鼻をひくひくと動かしていた。
「うん。たぶん、こっちのほうからだと思う!」
二人が駆けつけた先では、村の近くに凶暴な魔物が出現していた。
牙を剥き、暴れるその姿に、近くの村人が悲鳴を上げる。
「っ、俺では間に合わぬのだ!」
帝がそう判断した、そのときだった。
「いっけーー!!」
カノンが勢いよく手を突き出す。
その掌から、風が巻き起こり、鋭い刃となって魔物を一閃する。
――ズバァン!
魔物は風の力に吹き飛ばされ、地面を転がったあと、動かなくなった。
「……ま、まさかお前が攻撃魔法を……?!」
帝が目を見開いてカノンを見つめる。
しかし、当の本人は満面の笑みを浮かべていた。
「やった!! 攻撃魔法使えるようになったんだ!! 僕ってば才能あるから!」
その笑顔に、どこか無邪気さと誇らしさが混ざっている。
――暗転。
舞台は、カノンの体内。
「な、なんで!? 暴食の魔王って覚醒したら暴走するって設定だったはずでしょ!? 嘘でしょ!? 暴走しないの!?」
絶叫するのは、カノンの中に取り込まれた“暴食の魔王の核”。
「てかよく見たらこいつ、魔力量めちゃくちゃあるのに、質がへなちょこすぎて全然出力出てないし!! え? ショボ!!」
あまりの理不尽に、核は悲鳴を上げる。
「お願いだから!! 気づいて!! ねえ!!! 誰か気づいてよおおおおおお!!」
その声は誰にも届かず、エコーのように虚しく響き渡っていた。
――カノンは今日も、平和で元気に過ごしている。
次章
第13章『終焉の茶会、魔王は微笑む』は、
9月10日 20時より投稿を開始します。
どうぞ、お楽しみに。




