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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第12章『終焉の茶会、暴食の魔王と最弱覚醒』

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07.その一口が運命を変える

夕暮れの浜辺にある一軒の屋敷。その中では、村人総出の歓迎会が開かれていた。

長い木のテーブルには、獲れたての魚介類が所狭しと並び、潮の香りと香ばしい焼き魚の匂いが立ち込めている。


「わああ……! 海の幸ってこんなにいっぱいあるんだね! すごい! 美味しそ〜!」


カノンは目を輝かせながら、目の前の料理に両手を伸ばした。

タコのカルパッチョ、サザエの壺焼き、金目鯛の煮つけ、アワビのステーキ、謎の貝の味噌グラタン……何もかもが初体験で、しかも全部美味しそう。


対照的に、帝はきっちりと姿勢を正し、ナイフとフォークを使って焼き魚を解体していた。


「兄弟でも、食べ方がまるっきり違うもんだねぇ」


「はは、お坊っちゃんは食べっぷりも見事じゃ」


村人たちがにこにこしながら見守る中、カノンは次から次へと料理を頬張っていく。


「これも美味しいし、こっちも! あ〜、やっぱり世界は食べ物でできてるんだな〜!」


「お前は食べすぎなのだ。腹を壊してもしらんぞ」


呆れ顔の帝が箸を置いて水を口に運ぶその時だった。


「ん……? なんか、硬いの入ってた……」


カノンが首を傾げつつ、口の中から何かを取り出そうとした。

しかし――


「ごりっ」


軽快な音とともに、カノンはそのまま噛み砕き、何も気にせず飲み込んだ。


「……お前、今の音……」


「だいじょーぶだよ。僕、けっこうなんでも食べられるから。腐りかけの肉でも平気だったし〜」


「……それ、お姉ちゃんが昔、無理やり食わせてたやつなのだな……」


帝がため息をついた瞬間――部屋の空気が、一瞬だけ変わった。


どこからともなく“コクン”という小さな音が響いた気がした。

闇のような何かが、カノンの中へと吸い込まれていくような……。


しかし、それに気づいた者は誰一人としていない。


――ただ一人を除いては。


「……ん?」


カノンが自分のお腹をぽんぽんと叩いた。


「なんかね、いま、お腹の中で“動いた”気がしたんだよね」


「だから言ったのだ、食べすぎなのだ」


「うーん、そっか〜。あはは!」


そう言って、カノンはまた新しい魚に手を伸ばす。

帝は警戒を解かないまま、視線を一度だけカノンの腹部に落としたが、それ以上は何も言わなかった。


宴はそのまま、にぎやかに、温かく、進んでいった。


――その頃、遥か離れたエルノア学園の職員室では。


事務机に書類を広げていた銀髪の女性が、ふとペンを止めた。


「……?」


月は、手元ではなく、空の向こうを見上げた。

何かが、どこかで――


「……今、カノンに……何か、ありましたか?」


誰に問いかけるでもなく、ぽつりとつぶやく。

だがすぐに、苦笑を浮かべて首を横に振った。


「気のせいですね〜。はいはい、現実戻りますよ〜。次の書類っと……」


再びペンを取る月。

その目元には、ほんのわずかに、笑みが残っていた。

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