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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第12章『終焉の茶会、暴食の魔王と最弱覚醒』

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05.見えすぎちゃって救助日和

春の風が、森の木々をそっと揺らしている。

その穏やかな風に髪を撫でられながら、カノンは鼻歌まじりに森の道を歩いていた。


「いや〜、今回の依頼も楽勝だったね!」


「……予定通りに終わるのは珍しいのだ」


隣を歩く帝が、ぱたんと地図を閉じながら小さく呟く。

二人でこなしたギルドの依頼――魔力鉱石の採取は、驚くほど順調に終わった。敵も出ず、トラブルもゼロ。文字通り、散歩気分で帰るだけである。


「僕が一緒だったからね! 運が味方してるってやつ!」


「ふむ、確かに。カノンの“幸運体質”は異常なのだ」


得意げに胸を張るカノンに、帝は真顔で返す。

その様子は、淡々としているようでどこか柔らかかった。


エルノアの街へと続く小道。森を抜けたこの道は見晴らしもよく、空も高い。

帝は静かに周囲の気配を探りながら歩き、カノンはその横で気ままに花を摘んだり、蝶を追いかけたりと自由そのものだった。


「ねえ帝、ちょうちょってさ、魔物じゃないよね?」


「……違うのだ」


どうでもよさそうな質問にも、律儀に答える帝。

二人の関係は、そんな緩さと真面目さが絶妙に混ざっている。


――と、その時だった。


「……あれ?」


カノンがぴたりと足を止める。


「どうしたのだ?」


「なんか、困ってる人がいるかも」


カノンはじっと、遠くの丘のさらに向こうを見つめている。

帝も同じ方向を見たが、当然ながら何も見えない。


「どこなのだ? 何も見えんぞ」


「ほら、あの丘を越えて、もっとずーっと先。森の外れの左側!」


「……そんな距離、軽く百キロはあるのだが」


帝は懐から双眼鏡を取り出し、覗いてみるが……当然、視界に何も映らない。


「やはり何も――」


「見えるよ? 盗賊がいて、その近くに荷馬車があって、そのそばにおじいちゃんとおばあちゃんがいるの!」


「……相変わらずなのだ、視力だけは」


帝が軽くため息をつくのと同時に、カノンはもう歩き出していた。


「行こっ、帝!」


「まったく……仕方ないのだ」


森を抜け、丘を越え、さらに草原を進む。

驚くべきことに――カノンが言った通り、そこには盗賊に囲まれている老夫婦の姿があった。


商人風の恰好をした老夫婦が、荷馬車の前で盗賊たちに追い詰められている。


「……本当に、いたのだな」


「ねっ、すごいでしょ?」


帝は一歩、前へ出る。空気が一変し、場の気配が静かに緊張を帯びた。


「退け」


ただ、それだけの言葉。だが、確かに“圧”があった。

盗賊たちは一瞬、たじろぐ。


「ひ、ひるむな! やっちまえ!」


「だ〜め〜です〜♪」


その声とともに、風が吹いた。

カノンが笑いながら風に乗り、ひらりと舞う。


「風の道標みちしるべ、ぴゅ〜んって飛んでけ〜!」


軽やかな詠唱とともに足元に展開された魔法陣から、突風が巻き上がる。

盗賊たちは宙に浮き、ド派手に吹き飛ばされた。


「な、なんなんだこいつらぁああ!」


「撤退だ撤退ーっ!」


蜘蛛の子を散らすように逃げていく盗賊たちを見送りながら、カノンは片手をあげてにっこり。


「はい、成敗完了〜♪」


「た、助かりました……!」


「本当に、命の恩人です……!」


老夫婦が、何度も頭を下げながら礼を述べる。


「いいのいいの〜。困ってる人がいたら、助けるのが僕の役目だもん!」


その言葉に、老夫婦が申し訳なさそうに口を開いた。


「せめて、お礼をさせてください……。近くの村に泊まっておりますので、ぜひお立ち寄りを……」


「えっ、ご馳走!? 行きます行きます!」


「……また何か起こりそうなのだ」


帝は小さく溜息をつきながら、すでに老夫婦の隣を歩いているカノンの背を追った。


その遥か後方、遠くの空に、一本の煙が立ち上っていた。

夕暮れの空に溶けるその煙が、何かの始まりを告げるように揺れていた。

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