04.妄想の裏で、お仕事日和
春休み中の職員室では、いまだ混沌とした妄想が渦巻いている――
……などということは、当然ながら、カノンと帝の知るところではない。
静けさの漂うギルドの一角。
掲示板には整然と依頼用紙が並び、その前で二人の姿があった。
「うーん、これとか良くない? 僕たちでちょうどいい難易度!」
掲示板にぴょんと指を差したのは、カノン。
彼が選んだのは、魔力鉱石の採取という軽作業系の依頼だ。
「……なぜオレまで一緒に行かねばならんのだ」
隣で腕を組み、眉をひそめる帝。
「暇じゃーん」
「……否定できんのが腹立たしいのだ」
後ろのカウンターからは、ギルド職員がにこやかに笑みを送ってくる。
「まあ、二人なら安心ですね。どうぞ、お気をつけて」
「いってきまーす!」
「…………ふぅ」
◆ ◆ ◆
軽装のまま、ギルドを出る二人。
今日の仕事は、街からそう遠くない場所で、魔力鉱石を数個拾ってくるだけの内容だった。
舗装されていない道を進みながら、帝は地図を広げ、黙々と方角を確認する。
一方のカノンはといえば──
「わ、ちょうちょ! まって〜」
花の間をひらひらと舞う蝶を追って、草むらを駆けまわっていた。
「……カノン。道を外れるな」
「ねえ帝、蝶ってさ、魔物じゃないよね?」
「……違うのだ」
「じゃあ捕まえても大丈夫だね!」
そう言って、蝶を手で掴もうとしては失敗し、何度も立ち上がるカノン。
「……好きにするのだ」
◆ ◆ ◆
採取地点へ到着すると、あまりにもあっさりと鉱石が見つかった。
「ここかな〜……わ、あった!」
小さな青紫の結晶を見つけたカノンが、リュックから布袋を取り出して拾い始める。
数分後、必要分を採取し終えて、帝が周囲を見渡した。
「……本当に、簡単だったな」
「僕ってば、ラッキー体質だからね!」
胸を張るカノンに、帝は小さくため息をつく。
「帝も、きっと運良くなってきてる!」
「……カノンの隣にいる時間が長すぎるせいかもしれんのだ」
◆ ◆ ◆
採取品をリュックに詰め直し、二人は来た道を戻り始めた。
「帰ったらおやつだー♪」
上機嫌に鼻歌を歌うカノン。その後ろで、帝が小声で呟く。
「……それに付き合わされるのか」
「うん。もちろん♪」
「…………」
帝が何かを言いかけたとき、ふと彼の目が遠くを捉えた。
夕焼けに染まりつつある空の下、遠方に、うっすらと煙が立ちのぼっている。
「……あれは」
立ち止まり、じっと見つめる帝。
カノンも振り返るが、まだ距離があるせいで、ぼんやりとしか分からない。
「焚き火……じゃないよね?」
「わからんのだ。だが、あの方向は──」
◆ ◆ ◆
一方そのころ。
エルミナ学園の職員室では──
「魔王シキ様、ばんざーいっ!!」
「わしのビームじゃあぁぁ!!」
「さあ、すべてを曝け出して……?」
「拙者、心して学びまするっ!!」
もはや誰の妄想なのかすら分からない台詞が飛び交い、混沌の極みを極めていた。
まだ、月は戻っていない。
現実の仕事を淡々とこなす二人の少年と、暴走する妄想教員たち──そのコントラストは、ひどく鮮やかだった。




