表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第12章『終焉の茶会、暴食の魔王と最弱覚醒』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

106/162

03.妄想は尽きぬ!式神と光と影の講義

――職員室は、もはや異空間と化していた。


カーテンは風もないのにひらひらと揺れ、書類は床に散らばったまま。

机の上のペン立てには、なぜか魚型チョークや肉球スタンプが混ざっている。


誰も片づけない。いや、誰も見てすらいない。


「……では、俺も妄想に付き合ってやるか」


ソファに足を投げ出した鬼影が、ニヤリと笑った。


「妄想とは想像力の自由。つまり我の得意分野だな」


夜行が茶を啜りながら、静かに立ち上がる。


「若返ったわしに、もう妄想など不要じゃが……まあ、乗ってやろう」


神崎が、杖をくるくると回しながら微笑む。


止まらぬ暴走、第三弾。

ここにきて、職員室の妄想温度は最高潮を迎える。


◆ ◆ ◆


「では、透明人間の授業ってのはどうかねぇ」


ヒサメが目を細め、ふっと姿を消した。


生徒も、机も、黒板も、すべて透けていく。

誰がどこにいるのか、そもそも教室が存在しているのかも不明。


「存在とは何か……我が見えぬものを、見せてやろう」


ヒサメの声だけが教室に響く。


「先生、どこ……?」


「生徒もいない……?」


「……授業、始まってるの?」


最終的に全員が透明化し、教室そのものが“無”へと帰した。


「……いない授業、楽でいいねぇ」


それはもはや、授業ですらなかった。


◆ ◆ ◆


「よいか、これは戦である。知の戦である」


夜行が軍装に身を包み、戦国時代風の教室に降臨した。


掛け軸、甲冑、太鼓の音。教卓の背後には“学問一刀流”の旗。


「拙者、心して学びまする!!」


生徒たちは一斉に正座し、額を床に打ちつけるようにして敬礼。


「教育とは支配であり、服従である。よって、この夜行、全教科を統べる王となろうぞ!」


チョークの一振りで、教室に戦火が走る。


「いざ、天下布学!!」


「それ、布教ですよね!? 教育じゃなくて宗教!!」


誰かがツッコミかけたが、背景の火の粉と爆音にかき消された。


◆ ◆ ◆


「よ〜し、わしの番じゃな!」


神崎が勢いよく立ち上がった瞬間、なぜか縮んだ。


ちびキャラ化した神崎が、杖を引きずりながら教壇に立つ。


「お主ら、わしを甘く見るでないぞ!」


生徒よりも小さい。背伸びして黒板に届かせる姿が、完全に小学生。


しかし──


「これが、若さの力じゃぁぁぁあ!!」


杖からビームが発射された。


爆発、爆発、爆発。


理科室が吹っ飛び、美術室が爆破され、魔法の授業はビジュアル系戦場と化す。


「若さとは力! 知識とは破壊じゃ!!」


「神崎、それはもはや教育ではないぞ……」


夜行が冷静にツッコミを入れたが、神崎は満面の笑みで両手を挙げていた。


◆ ◆ ◆


「ふっふ〜ん……じゃ、いっちゃおうかな〜?」


鬼影の妄想だけ、なぜか明らかに“気合”の入り方が違った。


背景が暗転し、教室は常闇に包まれる。

血の薔薇が咲き乱れ、天井から赤い月が覗く。


「これは“魂の補習”だ。全てを曝け出せ」


仮面をつけた生徒たちが、カーテンのような黒い布を揺らしながら一人ずつ現れる。


「せ、先生、わたしの心を暴かないで……」


「無理だ。お前の罪、全部見えている」


BGMはオルゴールと心音。

薔薇が枯れるたび、教室の天井に鎖が絡みついていく。


……誰もツッコめなかった。むしろ、なんか謝りたくなった。


◆ ◆ ◆


「お前たちはもう少し、秩序を重んじるべきだ」


最後に立ち上がったのは、樹。


教室が整然と再構築され、全員が黒い制服に身を包む。


「魔王シキ様を称えよ!」


「魔王シキ様に感謝を!」


「シキ様こそ、唯一無二の……!」


謎の唱和が響く中、シキの肖像画が教室前方に飾られ、ろうそくが灯る。


……もはや完全に宗教施設である。


「魔王シキ様のもと、完璧な魔族教育を実現する」


「教育というか、崇拝じゃな……」


神崎が呟いたが、すでに遅かった。

生徒たちは感涙しながら祭壇に向かっていた。


◆ ◆ ◆


狂気の妄想空間。


そこに、一筋の“現実”が入り込む。


──職員室のドアが、静かに開いた。


「……お疲れのようですね」


銀の髪、ゆるやかな声。


月が、微笑みながら足を踏み入れた。


「現実、戻しましょうか?」


ぱちん、と指を鳴らす。


瞬間、すべての妄想が消し飛んだ。


浮遊する机、血の薔薇、将軍装束、宗教教室、小学生神崎。

すべてが現実の“書類まみれの職員室”に戻ってくる。


教師たちは、呆然とした顔で座っていた。


「さ、あと3日で春休み終わりですよ。書類、終わらせましょうか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ