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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第12章『終焉の茶会、暴食の魔王と最弱覚醒』

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01.春休み職員室、理想の学園生活とは

春休みの昼下がり。


エルミナ学園の職員室には、妙に穏やかな沈黙が流れていた。


開きっぱなしの書類棚。未処理の提出物。


積み上がった業務リスト。……それらの山に手をつける者は、誰ひとりとしていない。


「……なんだかんだで、今年も平和だったよな」


椅子をくるりと回しながら、柊 湊がぽつりと呟いた。


「一部を除けば、確かに」


メガネを押し上げながら、橘 葵が淡々と返す。筆を走らせる気配はない。書類は眺めるだけ。


「では、来年度に向けた理想の学園像とやらを語ってみるかね?」


ラットンがカップの紅茶を傾けつつ、くいっと片眉を上げた。


「わたしの“すてきな予感”が、ふわふわ漂っています〜」


窓辺に浮かぶセレナが、ゆらゆらと舞う花びらを指でつまみながら微笑む。


──こうして、誰も望んでいないはずの妄想トークが、静かに幕を開けた。


◆ ◆ ◆


「まずは我輩からいこう。我輩の理想の学園とは――ずばり、チーズの城だ!」


高らかに宣言したラットンの目が輝く。


「教室も、机も、椅子も、黒板も、教科書すらも! すべて、チーズ! もちろん、モッツァレラの香りが常時漂っているのだ!」


鼻先をくんくんさせながら恍惚とするネズミ教師。


「生徒たちは毎朝、敬礼してこう言うのだ! 『我輩に習いたくて入学しました!』……ふふん! 当然だろう、かの有名なネズミのキャラクターモデルは我輩さ!」


「ラットン先生……。それ、授業にならないと思います」


「余計なことは考えなくていい。我輩がチーズを教えるのだからな!」


◆ ◆ ◆


「んじゃ、次は俺の番かな」


柊がバンと机に竹刀を叩きつけた。いつの間に持っていたのかは不明である。


「全校生徒、毎朝正門に整列! 呼吸とともに号令! 返事は“押忍!”のみ! 道場で精神統一してから授業だ!」


「教育じゃなくて、軍隊ですか……?」


「違う! 教育とは魂だ! 筆より拳! 拳で理解させるんだよ!」


「教師失格だと思いますの……」


と、橘が冷静に切り捨てるが、柊は満面の笑みで胸を張った。


「いや、完璧だろ? ちゃんと訓練用のサンドバッグも廊下に配置してあるんだぞ?」


「やはり、軍では……?」


◆ ◆ ◆


「……では、わたしも語らせていただきます」


橘は咳払いを一つ。すっと立ち上がり、指先をすっと教卓の位置へ伸ばす。


「理想の教室、それは……完全管理型情報統制クラスです」


言い放つやいなや、空間に数式が浮かび上がる。ホログラムめいた空中構造式が、教室内を彩る。


「全生徒が、一言一句、想定された回答だけを行う。質問は不要。反応も予測済み。教壇に立った瞬間、授業がすべて完了する理想的運営……!」


「橘、それは……怖いぞ」


柊が一歩後ずさる。


「合理的です」


目が輝いている。怖い。


◆ ◆ ◆


「それじゃ、さいごはわたし、ですね〜」


ふんわりと微笑んだセレナが、ふわっと宙を舞う。スカートの裾が揺れるたび、綿毛のような何かが舞い上がる。


「生徒たちも、み〜んな浮かんでいる教室。椅子も机も、ぜんぶふわふわ〜」


まるで夢の中のような景色。


「授業中は、全員でおひるねです〜♪ 眠っている間に、魔法が脳にしみこんでいくの〜」


彼女の周囲には、金色の光粒が舞っているような気すらしてくる。


「寝て覚える……。究極だな……」


「努力の否定では……?」


◆ ◆ ◆


妄想は止まらない。


もはや誰も、書類の山には目を向けていなかった。

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