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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第11章『終焉の茶会、忘却と蛮族と通過儀礼』

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06.闘技場へようこそ、新入生諸君

体育館の空気が、ぴんと張りつめていた。


天井近くまで届く窓からは、やわらかな春の光が差し込んでいる。

けれど、その眩しさとは裏腹に、壇上に立つ神崎の表情はどこか曇っていた。


「学園長、挨拶は三分でお願いします!」


マイクを持った月が、満面の笑みでそう宣言した。


その手には、細身の砂時計。

机の上に「コトン」と置かれる音が、不思議と大きく響いた。


「……善処しよう」


神崎は一つうなずくと、前に出た。

そして、ゆっくりと話し始め──ちょうど三分、言葉の途中でマイクが自動でミュートされた。


「えー、それでは今年の入学──」


──ブツッ。


「………………」


会場が一瞬ざわめいた次の瞬間、背後から現れた月が、神崎の肩をぽん、と叩いた。


「では、ありがとうございましたー! さあ次いきますよー!」


神崎は無言で退場した。

教師たちは誰も突っ込まない。突っ込むと自分も消されるのを知っているからだ。


***


「それでは、始業式にうつります!」


月が続けて声を張る。

今度はより明るく、いたずらっぽささえ含んだ声だった。


「今年のご挨拶は……ミミ先生でーす!

三分で手短にお願いしますねっ♪」


「うにゃあああああ!? あ、あたし!? にゃ、にゃんで!?」


悲鳴のような叫びとともに、ミミが壇上に飛び上がる。

教師陣からはくすくすと笑いが漏れたが、その中には明らかに緊張の色もあった。


──挨拶担当がラットン固定ではなくなった。


それはつまり、来年は「自分かもしれない」ということを意味している。


「……悪魔め……」


ラットンが椅子の背に沈みながら、誰にも聞こえない声で呟いた。


***


「それでは、担任の発表にうつりまーす!」


月がまたもテンション高く進行する。


「今年の初等部一年生の担任は……グレン先生です!!」


「!?」


壇上に座っていたグレンが、目を見開いて硬直する。

それを見た教師陣の間で、目に見えない動揺が走る。


(えっ、しゃべれるの?)

(いや、確かにたまに話すけど……)

(っていうか、担任!?)


ざわつきの中、グレンは立ち上がり──無言で、力強くうなずいた。


「……………」


何も言わない。

それが逆に重い。


***


しかし、そんな静けさを破ったのは、新一年生たちだった。


「なんで獣が担任なんだよ!」


「魔術も使えないくせに!」


「担任って人間がやるもんじゃないの?」


素直な驚きと偏見が混ざった声が、あちこちから上がる。

体育館がざわつく。教師陣の間にも、ちらりと険しい視線が交わされ始めた。


「君たち、先輩なんだから新入生に説明してあげなさいよ」


教師の一人が、在校生たちに声をかける。


すると、代表らしき生徒が一歩前に出て、静かに口を開いた。


「……最初は教えるつもりだったんですよ。

でも……あいつらの“楽しみだねウフフ”みたいな顔を見てたら……なんか、自分たちだけがあの地獄を味わうのは不公平だと思ったんです!」


「なんてこった!!」


教師陣がそろって叫ぶ。


「信じられない……!」


「でも、言いたいことはちょっとだけ分かる……!」


「いや、分かっちゃダメだろ!」


職員席が軽いパニックに包まれる中、月がすっと壇上に立った。


手には、どこから取り出したのか、魔導灯の鍵が握られていた。


「じゃあ、体育館横の闘技場に行きますか♪」


満面の笑み。拒絶を許さない明るさ。


新入生たちが一斉に悲鳴を上げた。


「え!? 闘技場!? 何するの!? 説明は!? 先生たちは!?」


「やだやだやだあああ!!!」


「たすけてーーー!!!」


「おうち帰るーーー!!!」


騒然とする中、月はくるりと背を向けて歩き出す。


「さーて、皆さん、準備はいいですかー?」


その声に、在校生たちが一斉に立ち上がった。

その顔は──晴れやかで、どこか楽しげですらあった。


そして、場面は暗転する。


新たな伝統が、またひとつ築かれようとしていた。

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