06.黙してポーズをとれ
朝。仮拠点に、ぴしぴしと木槌の音が響く。
帝は真剣な表情で、柱を立てようと悪戦苦闘していた。
重い木材を担ぎ、釘を咥え、片手でバランスを取りながら、ぐらぐらする脚立に登っていく。
「ふふふ……今日は、完璧に作業してみせるのだ……!」
前回、瓦礫に落ちたことを未だ根に持っているらしい。
そんな帝を、月はじっと見ていた。
隣ではカノンが屋根材をまとめながら呆れ顔で呟く。
「……姉さん、あいつまた意味不明なやる気出してるけど、大丈夫?」
「……五分くらいで落ちると思う」
「信頼がゼロすぎるでしょそれ……!」
その予測は、驚くほど的中した。
バキン、と嫌な音がして、帝の乗った脚立が傾く。
「やば――なのだっ!!」
ずるりと木材ごと滑り落ちる帝。
しかしその瞬間、隣に積んであった板材の山が絶妙な角度で倒れ込み、ふんわりと帝をキャッチした。
「……い、生きてる……!?」
「また運だけで助かってる……っていうか、もう芸の域じゃんこれ……」
カノンが頭を抱える中、月は静かにハンマーを置いた。
「……帝」
「は、はいなのだっ!」
「今日は、そこに立ってて」
月が指差したのは、仮拠点の端にできた小さな台座。
「かっこいいポーズ取ってて」
「……えっ?」
「ずっと。しばらく。なるべく堂々と」
「戦力外通告が斬新すぎるっ!!」
カノンが思わず叫ぶ。
帝は一瞬ぽかんとしていたが、やがて決意を込めてうなずいた。
「わかったのだ……ならば、全力でかっこよくキメるのだ……!」
シュバッ!
帝は両脚をハの字に広げ、片手を腰に、もう片手を天へ掲げた。
風になびくマント(布切れ)、背景には雲と仮拠点の屋根。妙にサマになっている。
「……なんかすごい完璧なんだけど。余計腹立つやつ……」
「それ、戦力外通告ってわかってるよね、姉さん……?」
「でも、落ちないでしょ」
月は平然と答える。
「ポーズ取ってる間は、怪我もしない」
「それは……いや、妙に説得力あるのが腹立つ……」
カノンは複雑な顔で帝を見やった。
――意外と、絵になるからまた困る。
その日の作業が終わる頃。
帝は一日中、誰よりも姿勢よく、胸を張って立ち尽くしていた。
「ふっ……今日も任務完了、なのだ……!」
「明日も、よろしく」
月はさらりと告げた。
「……お姉ちゃん、それってつまり……」
「うん。明日もポーズ」
「なのだーーーっ!!」
仮拠点の夕空に、帝の絶叫が響いた。




