6 狼親子再びとお客さん
釣りを始めて3時間が経過したが、相変わらず釣果は無い
「どうやら釣りの才能は無い様だな。お前もそう思わないか?」
釣竿片手に足元で寛ぐ子狼を優しく撫でる
撫でられた子狼は気持ち良さそうに目を閉じている
何故子狼がここにいるのか?
それは1時間程前、池に狼の親子がムトウの所へ来たからだ
動きの無い釣竿を眺めていると、左の茂みから2頭の狼が出て来た
今回は子狼も一緒だ
「また会ったね。今肉出してやるから、待っててね」
ムトウは『格納庫』から猪肉の塊を2つ出して近くにおいてやると、狼は静かに近づいて来て肉の匂いを嗅ぐ
少しは警戒している様子だが、こちらに敵意がないと理解した様で子狼が肉を食べ始めた
猪肉の塊はかなり大きいから満足するだろう
ムトウは『狼親子は食事が終わったら去っていく』と思ったのだが、子狼がムトウの足にすり寄って来て寛ぎ始めた
親狼は背後で丸まっているので、こちらを少しは信用してくれたらしい
相変わらず動かない竿先を眺め、時々子狼を撫でる
「平和だねぇ···」
のんびりとした時間が流れるが、癒しの時間は珍客によって終わりを告げた
ガサガサ···グルルルル···
俺達の背後から姿を現したのは『巨大な熊さん』(前足?とお口に赤い染み付き)だ
どうやらどこかで『お食事』をしていた様だが、食べ足りなかったのかな?
『俺達を御飯にしよう』と来た様だ
そんな熊さんに対して狼達は威嚇しつつ、いつでも飛び掛かる姿勢になる
「おぉ!!狼さんが威嚇している!!格好いいぞ!!」
狼達の威嚇に応える様に熊さんも立ち上がり、威嚇の声を上げる
「熊さんも負けじと威嚇をしているぞ!!立ち姿が猛々しいな!!」
互いに威嚇し合う狼さんと血濡れの熊さん
子狼も頑張って威嚇しているが、俺から見たら『可愛い』が勝っている
「よしよし。お前は危ないから下がってな~」
釣竿を地面に刺し、子狼を下がらせて熊さんを改めて観察する
(さて、どこで『お食事』をしたのかな?それに···)
熊さんが出て来た方向からすると、俺の仕掛けた罠がある方向なのだが···
「後で確認しに行った方が良いだろうな···」
よく見ると後ろ足付近に『折れた竹槍が刺さっている』から、俺の罠の落とし穴に落ちたのだろう
「···とりあえず狩るか。人が設置した罠にかかったって事は、獲物を横取りしようとしたって事だもんな」
この熊さんはどうやら横取りをした様だ
ならばムトウにとっては『敵』である
ムトウが熊さんと狼さんの間に移動し、腰から『解体用ナイフ』を抜く
「今夜のお肉はお前に決めた。丁度キノコも薬草も有るから『熊鍋』にして美味しく食べてあげるよ」
『熊さん』改め『熊肉』と対峙するムトウは一気に距離を詰め、熊の首·肩·足にナイフを振り、切りつける!!
ナイフが解体用なので、刃の長さが少し足りなかったが、叫び声をあげる事も出来ないくらいには傷は深かった様だ
ムトウは勢いのままに背後に回り、熊の頭頂部にナイフを突き刺すと、熊は何も出来ずにお肉へと変わった
「さて、さっさと内臓を出して池で冷やしますか···」
ナイフを滑らせ腹を開き、内臓を出して池に巨大熊を沈める
今回は体が大きい為、手足は切り離して別々に沈めた
「夜は熊肉だぞ~。たくさん食べていいからな~」
子狼を撫でながら話しかけると、尻尾を振ってくれる
あ~、子狼は可愛いなぁ
殺伐とした雰囲気はどこへやら···
尻尾を振る子狼を撫でてほんわかするムトウであった