59 細工師に依頼
今日も雪が積もった森の中で採取をするムトウ
今回は『雪草』の採取依頼だ
『雪草』は冬に雪が積もる地域の一部に生える特殊な草で、主に『氷属性』の魔道具等に使われる草だ
何でも『乾燥させて磨り潰して粉にした魔石と混ぜ、ある程度の大きさに固めると冷気を継続的に出す様になる』らしい
この魔石を密閉型の箱に入れ、食材や薬の材料等を冷蔵(冷凍)保存するらしい
効果は一年持つくらいで、冬になると新しい物と交換する為に生産されるのだ
しかし、生産量は多くない為に料金が高く、一般家庭には手が出ない品となっている
「今年もあの場所にあるかな···」
ムトウは森の中を軽快に進み、中心近くに到着すると、雪を優しくどけ始めた
「おぉ、今年も大量だね」
雪をどかした先には『白い葉で蒼い花』を咲かせる植物が群生していた
ムトウは根を残す様に摘んでいき、半分ほど残して移動する
全部摘まないのは来年も此処で採取する為だ
そして何ヵ所かある群生地を回り、依頼量の倍の量を採取したムトウは街へと帰るのであった
「ありがとうございました。またお願いいたします」
薬師ギルドと錬金ギルドに納品をしたムトウは、あるお店へと寄り道をする
「こんちは~。依頼したいんだけど~」
店の扉を開けて中へ声をかける
「は~い。あら、ムトウさんじゃない。珍しいわね?」
奥から出てきたのは40代の女性で、この店の『店長兼細工師』をしている人だ
「実は作ってもらいたい物があってね~···髪飾りなんだけど、形をこの花の形にしてもらいたいんだ~」
袋から髪飾りの材料と見本となる花を出す
「はいはい。これは···『ミスリルのインゴット』と『雪草』よね?これで髪飾りを作ればいいの?」
出された材料と花を見て確認する店長さん
この店長さんはムトウとは何度も取引をしている為、もう驚く事はない
「それで?何個必要なのかしら?この大きさのインゴットだから(大きさ·厚みによるけど)『最低でも4個』は作れるわよ?」
店長がそう聞くと
「小さい子用だから軽くてそれなりの数をお願いしたいな。それに後で付与もするから、そのスペースだけ確保してほしい。余ったら代金にあててよ」
髪飾りの裏に付与の模様を彫りたいので、少しだけ大きめに作って欲しい事を伝えると、店長は紙に完成図を簡単に描き、ムトウに提案する
「それなら6個で余りはこれだけになるかな?どう?」
「ん~···4個でもう一回り大きくして、余りはこれくらいでどう?」
図に描き足して店長に聞くと「余りが結構多いわよ?それでいいの?」と聞いてきた
ムトウにとっては必要数手に入ればいいので、「これでお願い」と言って依頼する
店長も「それでいいなら」と納得する
「完成は···7~10日ぐらいでもいいかしら?今の仕事が今日か明日で終わるから、正確にはそれが終わったらになるけど···」
店長は予定表を確認して聞いてくる
「冬の間はこの街にいるから、大丈夫だよ~。遅くても5日後には一度様子を見に来るよ」
そう言って店を出るムトウ
「わかったわ。ちゃんと作っておくわね~」
閉じる扉に向かい声をかける店長は、すぐに仕事場へと向かう
「あのムトウさんが髪飾りねぇ···。よほど大事な人みたいね」
店長はそう呟きながら、今の仕事の仕上げに取りかかるのであった




