57 ムトウとクリスティアの出会い
この話は今から数年前の事
師匠に追い出されたムトウは、目的のない旅をしていた
「いきなり追い出すとか酷くないか?旅支度がほとんど出来なかったよ···」
ブツブツ文句を呟きながらも街道を進む
幸い冒険者としてそこそこの貯金はしていたので、路銀に困る事はなかった
街から街へとふらふらとしていたある日···
そろそろ完全に日が沈む頃に、少し先で金属同士がぶつかるような音と、悲鳴や怒声が聞こえてきた
何事か?と思い駆けつけてみると、ボロい格好の男達が、手に武器を持って馬車を襲撃していた
馬車の方は護衛が数人怪我をしていて、見るからに劣勢だ
(人数は護衛10人に賊20人かな?)
「山賊?盗賊?まぁ、悪人には違いない」と、ムトウは馬車の護衛達に加勢する事にした
「後ろから失礼~!!」
とりあえず近くにいた大男の後頭部を(鞘にしまったままの)剣で強打!!
昏倒させた後、次々と賊達を気絶させて行く
一人も殺さないのは『どちらが悪かまだ完全に判断出来ない』からだ
ムトウの参戦により護衛側も押し返し、数分後には全員を沈黙させた
「無事な様ですね~。それじゃ、お気をつけて~」
ムトウはその場を去ろうとするが、護衛達に止められ、お礼として次の街まで送ってもらう事になった
その時に会ったのが、前領主の娘である『クリスティア』だった
移動中はクリスティアがムトウにあれこれと話しかけ、ムトウもできる限りの相手をしていたら、目的地に着く頃には『お兄様』と呼ばれる様になっていた
※どうしてそうなったのかは、今のムトウにも不明である
そしてムトウが(当時はまだB級)冒険者だとわかると、領主邸へと連れられて、前領主から『メダル』を渡された
「孫を助けてくれたお礼だ」と言って譲らないので、ムトウはメダルを渋々受け取り、領主邸を後にするのであった
それからは優先的に依頼をされる様になり、『特級』の推薦人にもなってくれたりもした
しかし、前領主は事あるごとにムトウを『養子』(孫の婿)にしようと誘い、クリスティアもどこでも『お兄様』と呼ぶようになってしまったが、ムトウは軽くスルーをしていた
そして2年前に前領主が亡くなった(老衰)後は、紆余曲折あってクリスティアが領主となったのだった
因みに、ムトウは別に『お兄様』呼びを嫌っているわけではないのだが、周りからの面倒事が増えるので、呼ばれる度に否定している
今では挨拶代わりになりつつあるが、それでも『馬鹿と勘違い』は出て来るので、頭痛の種になっていたりする
※これから補足と言うかおまけ?
クリスティアの親は早くから亡くなっている為、高齢の祖父が領主をしていた
その祖父が亡くなった事で親戚連中が後釜を狙い、様々な策を講じるも全て失敗し、何故か『全員が事故死する』という奇妙な事が起こった為、誰もクリスティアが領主になる事を反対しなかった
むしろ『厄介事を押し付けた』と思っている様だ
しかし、その真実は『1人の男と前領主の約束』だったのだが、その事を知る者は誰もいなかった




