1 森の中で狩りをする男
深い森の中、一人の男が食糧を採取していた
「このキノコは食べられる。こっちのキノコは毒キノコで食べられない···」
赤緑なキノコを鑑定して採取をし、近くの茶色いキノコは無視して歩く
どう見ても茶色いキノコの方が食用に見えるが、このキノコは食べると『幻覚·嘔吐·高熱·めまい·下痢·全身麻痺』を引き起こす『猛毒キノコ』だ
他の毒キノコは薬の材料(解毒薬·毒薬)になるが、このキノコだけはどう調合·分析しても薬の材料にならなかった
しかし、見た目が『シイタケ』に似ている為、料理に混ぜられて『暗殺に利用される』事があった
現在ではプロの『鑑定師』による選別で暗殺に使用される事はほぼ皆無となったが、今でも『素人がたまに間違えて食べる事件』が後を絶たない
男は自前の『鑑定』で安全な食材を採取している為、こういう毒物を誤って採取する事は無い
「しかし、狩猟依頼対象の大物が見当たらないな···。おっ?対象の足跡発見?」
暫く地面を調べていると、大きな足跡を発見
「これは大物だな。この大きさの足跡だと依頼の大猪かもしれないな。狩ったら今夜の晩飯にしようかな」
見つけた足跡をたどって猪を探して暫く歩くと、その先から水の音がする
(どうやら先に水場がある様だな。動物や魔物の水のみ場か?)
慎重に進むと大きな池があり、大きな猪が水を飲んでいる
(大きさ的にアイツが足跡の主だな···)
気配を消して腰に差していた『剣』を抜き、一気に近づいて猪の首を切り落とす
ザッ!!ヒュッ!!······ズズン!!
猪は反応する前に頭と胴体がお別れし、その場に倒れて絶命した
「よし、さっさと内臓を抜いて池に沈めよう」
太陽が真上にあるので、夕方ぐらいには水から引き上げる事は出来るだろう
「今夜はここで一泊だな。しかし、この猪肉···晩飯にするには多すぎるなぁ」
依頼内容は『大猪の討伐』なので、証明部分(今回は大牙)以外は男の自由だ
「1人で食べるのは当然無理···。でも、なるべく食べてあげないと失礼だよねぇ···」
肉は『格納庫』(空間魔法)に大量にあるんだよなぁ···
半分は森の民の糧のなってもらうか?
おっ?早速お客さんが来たな
草むらから音がしたので視線をやると、狼が現れたので猪の内臓を投げてやる
「ほら。新鮮なモツだぞ。食べな」
ぽ~い···パクッ!!
ガサガサ···
狼は器用にモツを咥えて去って行った
「また明日来いよ~。そん時は肉をあげるからな~」
こちらの言葉を理解するとは思っていないが、男は去って行った狼へそう告げると、野営の準備を始めるのであった
パチパチ···
焚き火の薪が小さく爆ぜる
「そろそろ焼けたかな?···いただきま~す」
焚き火のまわりに刺した猪肉の一つを食べる
味付けは塩と野生の香草だ
「塩と香りだけだけど、結構うまいな。香草が猪の臭さを消してるから、量もそこそこ消費出来そうだ」
引き上げた猪は解体後、肉のほとんどは男の空間魔法『格納庫』に収納され、少量の肉が夕飯として焼かれている
「しかし、『格納庫』に収納された肉の量を考えると微々たる量だけど、飽きずに食べられるのは大きな収穫だよね。でもなぁ···」
格納庫にしまった肉の量を考えたが、その量にため息が出る
現在、男の『格納庫』の中は大量の食糧や武器や雑貨が入っている
普段から『興味がある物を採取·収穫·収納してしまうために収納量が大量になり、食糧も食べ飽きてしまう』事もあった
余った物は街等で販売·納品すればいいのだが、『大量過ぎて買取り価格が下がり過ぎてしまう』ので、あまり売れずに貯まる一方なのだ
現に保管している肉の種類と量は、前の街では買取り価格が半値以下になってしまった為、全然売れずに『格納庫の肥やし』状態になっている
それなら何故猪を狩ったのか?
理由は『ある程度間引きしないと、森の生態系が狂う』からだ
男のいる森は強い生き物が多く、狩人達でも奥には滅多に入らない為、男が依頼を受けてある程度の数に狩猟していた
街では肉の他に皮や素材も売却可能だが、前に述べた様に『大量にあり過ぎて安値でしか売れない』状態になってしまった
他の街等に持って行けばある程度は売れる為、男はより森に近い街に来たのだが、今回はすぐに森に入り依頼の『大物狩り』をしていた
「ご馳走様。さて、明日は依頼完了を報告に街に行くか···。しかし、あの大きさの猪を他の人達が狩らなかったのは何故だろう?上手く隠れたとしても、大きくなりすぎだよ」
今回の依頼内容は『森の奥の大物の討伐』で、報酬がそこそこ良かった
本来は狩人や冒険者が適度に間引きするのだが、どうやら今回は事情がある様だ
「まぁ、明日ギルドで聞けばいいや」と、テントに入って就寝する男であった