補足・雑記・後書き
本文とは違いメタ視点が入り、主に考察に近い経済、数字のお話になります。
補足・雑記1:
この世界の「円」の強さはどのくらいか?
作中では1ドル=90円としたが、日本がエネルギー自給ができたとして本当にそうだろうか。
まず、日本の経常収支は大幅な黒字となる。この点は作中で何度も触れている。
輸入に占めるエネルギーコスト(全体約4分の1)が減るからだ。
またエネルギー自給の影響で、日本国内での様々な生産コストと、流通に必要な経費(燃料代)も下がる。
その結果、アメリカよりインフレが低ければ、ドルに対して円高圧力となる。
当然ながら、国際的な円の信認が高まる。簡単に言えば、「資源国の通貨」となる。
資源が円の価値を担保してくれるので、海外の投資家は安心して円を買う。
一方で日本が中東など海外の石油、天然ガスを買わなくなるので、決済に使うドルを持つ必要性が低下する。
場合によっては、アメリカの国債を買う必要性も低下する。
アメリカの国債については、日米双方の安全保障や国家戦略も絡むので史実との大きな変化はないだろうが、日本が持つドルが減る可能性は高い。
このように、どの方面から見ても円安になる要素は見当たらない。
以上の点からAIに聞いてみた。
・史実の平均レート(概算)
1980年代 240〜120円/USD
1990年代 120〜100円/USD
2000年代 110〜80円/USD
2010年代以降 120〜110円/USD
・仮想レート(予測)
1980年代 200〜90円/USD(より円高)
1990年代 90〜80円/USD(黒字拡大でさらに円高)
2000年代 80〜70円/USD(資源国評価で安定高)
2010年代以降 100〜90円/USD(円の基軸性上昇)
以上のような数字を出してくれた。
ただしこれは、日本以外の世界経済が同じで、国際市場での資源価格などにも変化がない場合になる。
また、この世界では日本と中華の関係が芳しくなく、中華の経済成長が鈍化している想定なので、違った数字になる可能性もある。
補足・雑記2:
この世界の日本の国家予算は?
日本が1980年頃から石油・天然ガスを自給できていた場合の国家予算(歳入・歳出)の推移を少し考えてみよう。
史実では、1980年代初頭の歳入が約40兆円。2020年代が約70兆円。
歳出は1980年代初頭の約45兆円。2020年代が約110兆円。
この世界の場合、史実に対して経済成長率がプラス1.5〜2.0%となるので、単純なGDP拡大で税収が自然増となる。
もう少し見ていくと、エネルギーコストの大幅な減少で企業収益が増え、法人税収がアップする。エネルギー産業の存在により雇用が増える。
また雇用に関しては、エネルギーコストの影響で様々な分野で増えているのは間違いない。
一方で歳出の方は、燃料輸入がなくなり、エネルギー補助・輸入燃料備蓄への依存度が大きく下がる。
それ以外だと、雇用が安定し、デフレ圧力が減るなどで、社会保障費が史実より抑制される可能性が高い。
少子化も、経済が安定していれば史実より鈍化している可能性は十分にある。
もしかしたら「氷河期世代」が無くなり「失われた⚪︎⚪︎年」もない、かもしれない。
少なくとも、史実よりダメージは大きく減っているのは間違いない。
年代別には、1980年代は成長軌道が強化される。1990年代は不況が抑制される。2000年代は財政が安定する。2010年代は赤字が圧縮される、筈である。
以上の点からAIに聞いてみた。
・歳入(税収(兆円))
史実 仮想
1980年代 40〜50 50〜60
1990年代 45〜55 60〜70
2000年代 45〜55 65〜75
2010年代 55〜65 75〜85
2020年代 65〜75 85〜100
・歳出(予算規模(兆円))
史実 仮想
1980年代 45〜60 45〜55
1990年代 60〜70 55〜65
2000年代 70〜80 65〜75
2010年代 85〜95 75〜85
2020年代 100〜110 90〜100
以上のような数字を出してくれた。
とはいえ、この回答は模範解答だ。
なにしろ国債がほとんど入っていない。逆に今までの借金返済に回っている節がある。史実の2020年代など、110兆円のうち40兆円が国債だ。
GDPから考えると、消費税など税収も変化している可能性がある。
勿論、国債ゼロは理想だし、バブル経済の頃に一度は達成された。
それにエネルギー自給ができる場合だと、国債への依存度が大きく低下するのは自明だ。
それでも高齢化社会、社会保障費の増大を考えれば、ゼロという事はないだろう。
それに金があれば使うのが人の常だ。
史実より遥かに少ない可能性はあるが、国債がゼロの可能性は低いだろう。
またこの世界だと、みんなが大好きな防衛費は確実に史実より大きな予算枠となる。
何せGNPの1%が基準だ。
国債の利息返済がゼロと仮定した場合、上の数字からでも各省庁の予算は史実より最大で二倍の規模になる。最低でも5割り増しだ。
つまり21世紀序盤の防衛費は、史実の5兆円ではなく7兆円から10兆円ということになる。しかも1ドル=80円程度の世界で。
空母の1隻や2隻、人員面以外では気楽に保有できる事だろう。アメリカからの武器輸入も楽々できてしまえる。
補足・雑記3:
日米関係はどうなる?
日本が1980年から石油・天然ガスを自給していた場合、アメリカとの関係はどう変わるかを、外交、経済、安全保障など多面的に見ていきたい。
我々の世界では、日本は中東情勢の安定や原油確保のため、アメリカの中東戦略と歩調を合わせざるを得ない。湾岸戦争支援が典型例だろう。
だがこの世界では、エネルギー面で自立しているので、アメリカに対する依存度が低下する。
アメリカとの関係は、史実よりも対等な立場に近づくだろう。
一方でエネルギー貿易が黒字になると、貿易構造が米国と似てくる可能性が高い。
そして作中でも触れたが、日本が経済面で自信を持ち、経済、特に 為替・通商政策で強気の交渉姿勢となる可能性が高くなる。
場合によっては、プラザ合意のような一方的円高圧力に対抗する可能性がある。
(まあ、史実の日本政治の弱腰を見る限り、可能性は低いだろうが。)
安全保障面では、これも作中で少し触れたがシーレーン防衛への依存度が低下する。
その結果、米軍駐留のロジックが若干弱まる。
だが冷戦中はソ連、その後は中国や北朝鮮の存在があるため、日米安保の希薄化や同盟破棄までは至らない。
史実との大きな違いは殆どないだろう。
一方で日本の防衛力が尖閣防衛の影響で高まるので、対等な関係性が強まるだろう。
技術面ではどうだろうか。
資源自給と関連産業の技術革新(掘削・再エネ・水素等)が進むと、日本の技術外交の影響力が上昇する。
そして日本が資源国になると、アメリカにとっては単に資源の輸入先だけでなく協力すべきパートナーとしての地位が高まる可能性が高い。
史実での一方向ではなく、日米の双方向での協力関係となるだろう。
だが、経済問題全体は史実より大きい筈だ。
単純にLNGや石油製品の輸出でアメリカと市場競合の可能性が高まる。というか、確実に発生する。
特にアジア市場では、距離の面でも日本が優位なので、影響力争いが出る可能性がある。
補足・雑記4:
日米貿易摩擦はどうなる?
史実では時期によって違うが、日本が自動車、家電、半導体などで対米輸出が急増した。
この結果、特に1980年代、90年代にアメリカで「日本脅威論」が強まった。
この結果アメリカは、数量規制(輸出自主規制)、プラザ合意(円高誘導)、市場開放要求(スーパー301条など)を行なってきた。
この世界では、日本がエネルギーを自給することで輸入が大幅に減り、貿易黒字はさらに拡大する。
石油、天然ガスはアメリカとの関係が薄いのだが、アメリから見ると日本が「得をし過ぎている」と映る。
日本優位の貿易となり、日本の円が資源により強化されると、円高によって日本企業の海外進出が早まり、さらには史実より拡大する可能性が高い。
これがアメリカ進出であれば、アメリカからの摩擦、圧力が減少する可能性はある。
その摩擦に関してだが、史実では半導体や車が中心となるが、個々の製品や産業そのものよりも日本の黒字体質が問題視される可能性が高まるだろう。
一方で日本は、資源国、場合によっては資源供給国としての立場が利用できる。加えて、採掘や液化天然ガスの技術をアメリカにもたらす側になる。
つまり、日本は資源と技術を持つので、アメリカに一方的譲歩する必要がなくなる。
アメリカとしても、資源面では相互補完関係となる。
これらは日本にとって、大きな交渉カードとなるだろう。
これらから考えると、日本はアメリカに対して史実ほど貿易摩擦の交渉で譲歩しないのではと考えられる。
対立が激化する可能性は高いが、より対等に近い関係になる可能性も高い。
エネルギーの自給は、非常に大きな外交カードであり、安全保障でも重要で、戦略的価値があると言える。
補足・雑記5:
この世界の2020年代序盤の日本のGDPは?
大前提として、石油・天然ガスの自給により、日本は1980年代から貿易収支が史実での4分の1の輸入が消える。
1990年代からは、天然ガスの輸出により逆に数兆円(2兆円から5兆円。時期によって変わる。)貿易収支がさらにプラスになる。
また、石油、天然ガスの採掘事業の分だけ、単純な収支以上にGDPが増加する。他への波及や複利効果も非常に大きくなる。
逆に石油、天然ガス輸送の船舶需要が減る。なにしろ、ペルシャ湾などと尖閣諸島では、日本本土との距離が違い過ぎる。
発電事業では、天然ガスにシフトしているので、その分だけ原子力を中心にして減っている。
安価な電力による生産コストの減少、ガソリン、軽油の自給による輸送コストの減少、全ての面での光熱費の減少する。
そして、浮いた分が他への消費や貯蓄、投資に回る。
天然ガスの自給により、太陽光発電など再生可能エネルギーの事業割合が大きく減る。
自給により燃料、電力の価格が大きく下がる。
そうした事を加味してAIに聞いてみたところ、1980年から2023年の経済成長率の平均は、史実が1・52%に対して3・33%となる(らしい)。
実質GDP、40年後の経済規模は史実の約2倍以上に拡大する可能性があるという事になる。
2023年のGDP(名目)が約600兆円なので、1200兆円の可能性がある計算になる。
さらに為替を加味して考えると、1ドル=140円が1ドル=100円として12兆ドルにもなる。
一人当たりGDPは約10万ドルなのでアメリカ以上(アメリカは約8万ドル)となり、世界第一位に匹敵してしまう。
もっとも、GDPが二倍になったところで人件費などの面から物価も相応に高くなるので、数字ほど豊かさは感じられないだろう。
それにここまでの数字になる可能性も低い。
だが一方で、少なくともGDPが史実を下回る可能性が極めて低いのは間違いない。
総人口1億以上の国が石油、天然ガスを自給できるというのは、非常に大きなアドバンテージとなる。
補足・雑記6:
中華人民共和国の、日中関係の悪化に伴う変化は?
日本との国交正常化が史実より6年遅く、経済交流の開始、円借款なども史実より4、5年遅い。
日本の油田開発と領土問題を絡めた対立で交流そのものも史実より鈍化。
油田を守るため日本側が及び腰となる。
継続して、人材交流、技術援助、円借款も史実より大きく減少する。
そして天安門事件(1989年)での断交状態も、史実よりかなり長引く。
円借款は開始から5年で実質長期に途絶することになる。
天安門事件以後も、交流が回復しないままの状態から、反日教育、反日政策が開始される。
経済は別と中華側が言うだろうが、日本側としては史実のような関係強化に踏み切れない流れが延々と続く。
何しろ問題はエネルギーの自給という死活問題だから、日本としても譲れない。
仮に日本からの円借款、技術支援が全く無かった場合、中華の経済成長が史実と比べて大きく停滞するのは間違いない。
AIに聞いてみたところ、最大で年平均のGDP成長率は史実より2%程度低下する。
つまり40年間で、成長は半分以下になる。
(※史実で年率10%の場合、8%になるということ。)
もっとも、日本から得られないものを欧米から得る可能性も高い。
そもそも、日本との関係がゼロという可能性も低い。
だがそれでも、影響は大きいと考えるべきだろう。
間をとって1%の成長鈍化と仮定すると、GDPは40年間で史実の3分の2程度に減少する計算になる。
史実の2023年でGDPは約17・8兆ドルなので、11・8兆ドルという事だ。
もしこの数字だったとしたら、あの国は色々と大変な事になっているだろうし、将来の先行きも怪しいだろう。
一方で、長期間にわたって経済成長が史実より鈍化していれば、少子化の圧力が低下している可能性も考えられる。
そして最後二つをごく簡単に合わせて考えると、日本の方がGDPで上回っている可能性があるという結果になる。
……ホントか?
以上、ここではシミュレーション部分のかなりをAIに委ねてみました。
長々と資料や計算機と格闘せずとも、AIのおかげでとても簡単に楽しめるようになると実感できました。
正確さなどに問題もまだありますが、皆さんも色々と聞いてみると良いかもしれません。
そういえば、この世界だと日本の動物園にパンダはいない可能性が高そうだなあ。
2025年春・文責:扶桑かつみ
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あとがきのようなもの:
基本的に地形、資源を変更しただけで、特に奇はてらいはしませんでした。政治的意図もまったくありません。
また、条件を同じで戦前、20世紀初頭ぐらいに今回の油田が発見された平行世界の観測も少し考えたのですが、
油一つで当時の日本の何もかもが変化するわけでもないし、多分日米戦争は起きないので今回の観測は避けました。
日本の近在に大油田があった場合、なぜ日米戦争が起きないのかは、皆様それぞれ考えてください。
2012年・文責:扶桑かつみ