アデラ姉さんは守りたい-1
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サンドラがシンデレラの部屋を急襲した翌日。アスター男爵家の長女であるアデラは、侍女のケイトと衣装室にいた。
「アデラお嬢さま、本当によろしいんでございますか?」
年取った侍女頭が気づかわしげにたずねる。彼女は執事のセバスの妻であり、夫とともにアスター男爵家に長年仕えてきた人だ。母を亡くしたシンデレラをずっと温かな目で見守ってきたが、サンドラの連れ子であるアデラとバーサに対しても優しく接していた。
「よろしいもなにも、シンデレラがそんな状態なのに、私だけ贅沢しているわけにはいかないわ」
アデラはつり下がったドレスを手にあれこれ比べながら、なにをどのくらい残すべきかを考える。身長の高いほっそりとした体形と、艶やかな銀髪が母親にそっくりだ。
「シンプルなデザインだけ残して、すぐに流行遅れになりそうなものは売っちゃいましょう」
てきぱきとドレスやアクセサリーを仕分けていくその行動に、未練は感じられなかった。アデラは着飾ることは嫌いではないが、ドレスや宝石に母親のような執着はない。どれも社交に必要だから持っているにすぎないのだ。
アデラはもうすぐ22歳。貴族令嬢としては嫁に行くタイムリミットが迫っている。しかし世間体以前に、彼女には少しでも早く結婚したい理由があった。社交に励んでいるのは、条件にあう結婚相手を見つけるためでしかない。
「まさかあの子の衣裳部屋が空っぽだなんて、気が付かなかったわ」
仕分け作業があらかた片付いたころ、アデラはため息交じりにつぶやく。ケイトが申し訳なさそうに顔をふせた。
「申し訳ありません。私も主人もシンデレラお嬢さまから口止めされていたもので」
アデラがそのことを知ったのは今朝のことだ。実妹のバーサ以外の家族がそろった朝食の席で、サンドラがシンデレラを集中口撃したのだった。
「貴族がお金のためにドレスや宝石を売り払うなんて、みっともないったら!」
自分がそれをやろうとしていたことは棚にあげ、さらには本来家計のことは当主である自分の責任であることも棚にあげ、ケチだのビンボー臭いだのと罵ったのである。そして自分の新しいドレスが買えないことに、グチグチと文句を言う。
アデラは母親をたしなめるべきかと迷いつつシンデレラの顔色をうかがうが、彼女はただ黙々と朝食を口に運んでいた。
食卓の雰囲気を悪くしないように、黙って耐えているのね・・・。
アデラは義妹の心中を察して、母への怒りを腹のなかに抑え込んだ。
しかし実際には、シンデレラは考えごとをしていただけだった。継母の嫌味をBGMのように聞き流しながら、「もっと安くお肉が手に入る方法はないかしら?」と思案していた。
男爵家の家計を預かるようになって3年。彼女は家にくる業者と直接交渉して、なんでも値切りに値切ってきた。その容赦のなさは、出入り業者たちに恐れられるほどである。しかし相手だって商売だし、値切るのにだって限界はある。かといって、家族や使用人たちの健康を考えたら、食卓はあまり質素にできないし、何より自分だって肉が食べたい。
難しいわね・・・。
シンデレラはわずかに眉根を寄せる。そんな「お肉の件」で悩む彼女の姿は、はた目には継母のいじめに耐える健気な娘にしか見えない。そして、そんな義妹の姿を見たアデラは、自分に対して猛烈に腹を立てる。
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