王子敏腕側近(自称)の憂鬱-2
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王子の両親、現在の国王と王妃の仲は壊滅的に悪いことで知られている。ふたりは当然ながら政略結婚なのだが、朝から晩までつまらないことでケンカが絶えない。
例えば、謁見室の新しい絨毯は何色がいいかとか、中庭に植える花の種類だとか、朝食にはコーヒーか紅茶かとか、カレーにソースをかけるとかかけないとか・・・側に仕える者たちがうんざりするほどケンカばかりしているのである。
見かねた側近が、王妃に離宮での別居を勧めたこともあった。ローレンス王子が生まれてからは、ふたりとも「義務は果たした」とばかりに寝室をともにしていない。だったら、離れて暮らした方がお互いに良いのではないかと、誰もが思っていたのだ。
あの側近は左遷されてしまったな。
ディランは身震いする。王妃いわく、「なんで私が王宮を出ないといけないのよ!」だそうである。筆頭公爵家の出身であり、スットコ王家の血もひく王妃のプライドは、そびえる山のように高いのだ。
こんなわけでローレンス王子は、気の強い貴族令嬢や政略結婚を恐れるようになった。乙女的な恋愛観になったのは、恋愛小説好きだった乳母の影響だと言われている。「王子になに読ませてんだ」とは思うが、乳母は大切な王子に、結婚や女性に対して幻滅してほしくなかったのかもしれない。
ディランとて、王子の「真実の愛で結ばれたい」という願いを、できるだけ叶えてあげたいとは思っている。お仕えするローレンス殿下には幸せな結婚をして欲しいと心から願っているのだ。
そして妃選びに奔走した自分を一番の側近として取り立てていただきたい。敏腕側近として、周囲からも一目おかれたい。
出世したい、権力を握りたい、金持ちになりたい、モテたい・・・。
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「おい、ディラン!聞いてるのか?」
王子の言葉にディランはハッと我に返った。あらぬ妄想にふけってしまっていた自分を叱咤し、気持ちを切り替える。
「殿下。旅立つ前に、まずは貴族の令嬢を対象にした妃選びの舞踏会を開いてはどうでしょうか?」
その言葉にローレンスは顔をしかめた。妃候補の令嬢はみんな気が強そうで遠慮したいし、ほかの令嬢たちも似たり寄ったりである。とても真実の愛を育める相手とは思えないのだ。
そんな王子の心を見透かしたように、ディランはこう続ける。
「これまでの妃候補は高位貴族の令嬢ばかりです。普段の舞踏会でお話しになるのも、いつも決まった令嬢でしょう?」
王宮の舞踏会では、爵位に関係なく王子と話したりダンスしたりできる。しかし、子爵や男爵などの下位貴族は、遠慮して自分からは王族に近づかないのが普通だ。さらに最近は、妃の有力候補とされるタカビー公爵令嬢とエラッソー侯爵令嬢がにらみを利かせていて、よほど気の強い令嬢でないかぎりローレンスに近寄れない雰囲気になっている。
「それに経済的な事情があったり、領地が王都から遠かったりする家は、そう頻繁には王宮の舞踏会に顔を出せません」
「貴族の令嬢であっても、全員を知っているわけではないということか」
王子は顎に手をあててつぶやく。その可能性にようやく気が付いたようだ。
「舞踏会には年頃の令嬢は必ず参加するように呼び掛け、皆と平等に接する機会をもうければ、今までにない出会いもあるでしょう」
たとえ爵位が低くても、貴族の令嬢であればなんとでもできる。妃にふさわしい賢い令嬢なら、ディランもその辺りの助力は惜しまないつもりである。
ディランはメガネをくいっとあげて、最後のひと押しとばかりに言葉を発した。
「子爵や男爵家のなかに、殿下の運命の人がいるかもしれませんよ」
「そうかもしれないな」
ローレンスがうなずき、貴族令嬢を対象にした妃選びの舞踏会開催が決まった。王宮が平民の若い娘で埋め尽くされる事態を回避できて、ディランはホッと息をつく。
「では招待する令嬢の条件ですが、年齢は・・・」
“自称”敏腕側近ディラン・デキールは、王子に「周囲もそこそこ納得できる真実の愛」を見つけてもらうために、さっそく動きだした。
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