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サンドラの末路-3

毎日3回、7:00、11:00、16:00に更新します。アルファポリスさま、カクヨムさまにも投稿中。アルファポリスさまでは、数話分先行して更新しています。

「はあ、やっと着きましたのね!」


イイデンナ伯爵の手を借りて馬車を降りたサンドラは、長い長い馬車の旅からようやく解放されて、安堵の息を漏らした。


「ここはどこですの?」


だがお城の中庭にでも降りたと思ったサンドラは、目の前の古ぼけた屋敷を見て首をかしげる。それなりに大きくて立派な屋敷ではあるが、手入れが行き届いていないのでボロ屋敷と言ってもいいほど寂れている。周囲の庭も荒れ放題で、長いあいだ庭師の手が入っていないことが分かった。


「どこって、ここが領地邸だよ」


「何ですって!?」


サンドラはびっくり仰天した。こんなボロ屋敷になど、数日の滞在でも我慢できそうにない。そこへ、かなり老齢の男性がよぼよぼと近づいてきた。


「だ、旦那さま、奥さま!よ、よ、ようこそお越しくださいましたぁあ!」


老人はなにやら感激しているようだ。伯爵は親し気にその肩を抱く。


「ああ、久しぶりだねポール。元気そうでなによりだ」


「ハブリー、どなたですの?」


「この男はポール。長年我が伯爵家に仕えてくれている執事だ」


ポールは伯爵に「奥様だよ」とサンドラを紹介されると、老人とは思えない速さと力でサンドラの手を取り、感激してまくし立てた。


「奥様、ようこそ!ようこそお越しくださいました!このポール、誠心誠意奥様に仕えさせていただきます!!」


鼻をすすりながら、「この領地邸に住んでくださるなんて」と涙をあふれさせている。サンドラは気持ち悪かったが、手を放そうとしてもポールががっちりと握っていて放してくれない。


「あ、あのハブリー?」


夫に助けを求めたサンドラは、彼がまた馬車に乗り込もうとしているのに気づいた。


「どこへ行くんですの!?」


驚いて尋ねると、伯爵はなんでもないことのように言った。


「いや、この屋敷は古すぎて一晩でも泊まるのはキツイから、私は町の宿に泊まるよ」


馬車で半日ほど戻れば、そこそこましな宿がある町に着くのである。町の宿と聞いて、サンドラはパッと顔を輝かせた。


「なら私も!」


「いや、あなたはここに残るんだ。私は明日王都に向かうが、あなたは一生ここに住むんだからね」


「え!?ハブリー、何を言ってますの!?」


伯爵は馬車から離れてサンドラのそばまでくると、子供に言い聞かせるように話した。


「いいかいサンドラ、あなたは王都には生涯立ち入ることはできないんだ。国王陛下からそうご命令が出ているから、破れば牢屋行きだよ?」


「立ち入り禁止?どういうことです!?」


サンドラにはサッパリ分からない。


「シンデレラ嬢に二度と近づくなということさ。王都の屋敷に住めないなら、ここに住むしかないだろう?なに、私も何年かに一度はあなたに会いに来るよ」


「そんなこと聞いていませんわ!!私は孤児になったあの娘の面倒をみてやりましたのに!」


腹を立ててわめくサンドラに、伯爵はきっぱりと申し渡した。


「当主の私が『あなたを二度と王都に近づけない』と、陛下と約束したのだ!あなたは私の妻なのだから、それにしたがってもらう」


「そんな横暴な!」


抗議するサンドラに、伯爵は「横暴?」と顔をしかめる。


「王都にさえ近づかなければ自由に暮らせるんだから、礼を言ってもらいたいくらいだね。本来なら修道院に幽閉とか、もっとひどいことになっていたんだから」


「・・・そんな」


サンドラは力なくつぶやく。


「私はあなたに感謝しているんだよ?あなたと結婚することで滞納していた税金を無かったことにしてもらえたから、これでまた数年は遊んで暮らせるのさ!」


そう言って、伯爵は今まで見たことがないくらいの「いい笑顔」をサンドラに向けた。


10年ほど前から、イイデンナ伯爵領で採れる宝石の量は少しずつ減ってきていた。だが伯爵は贅沢な暮らしをやめられない。ここ数年は税金として納める分まで使い込んでしまい、税金と罰金を溜め込んで破産寸前だったのである。それが全部、サンドラと結婚して領地に閉じ込めることを条件にチャラになったのだ。


「そ、そんな、ウソよウソ・・・」


「私はこんな退屈な田舎に暮らすのはまっぴらだから、王都に帰るよ」


まだ呆然としているサンドラを残し、伯爵は今度こそ馬車に乗り込んで行ってしまった。


「ハブリィイイイイイイイイ!!!」


叫んでも馬車は戻って来ない。代わりに、領主邸の扉がバーン!と勢いよく開いた。なかから30代くらいの女が出てきてポールに言う。


「お父ちゃん、そんなとこにいつまでもいねーで、奥様にはやく入ってもらえ」


女は田舎の農家のおかみといった恰好で、ぽっちゃりとしていかにも健康そうだ。


「だ、だれ!?」


またまた驚くサンドラにポールが説明する。


「奥様、これはハンナと言って私の息子の嫁でして、お屋敷の台所を預からせていただいております。田舎者ですが、これでなかなか料理の腕はよろしいんですよ」


「こ、この女がシェフですの!?ポール、ほかに使用人は?」


サンドラは悪い予感に震える。


「はあ、今ちょっと人件費が足りないもので、ふたりだけでございます」


「おまえたちだけ!?」


もはや怒っているのか絶望しているのか、サンドラは自分でも分からなくなってきた。そんな彼女にハンナはドスドスと近づくと、無理やり腕を組んで強引に屋敷に引っ張っていく。


「心配いらねえだ、奥様。お屋敷の予算は厳しいけんど、ここは芋はいっぱいとれるんだ。芋さ食べてれば飢えることはねえ!」


「い、も・・・」


ハンナのたくましい腕に引きずられながら、サンドラは意識がゆっくりと遠のいていくのを感じた。


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