サンドラ、超特急で伯爵夫人になる
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サンドラが王宮に行った翌日、イイデンナ伯爵は午前中から男爵家にやって来た。サンドラの謹慎が昨日で解けたと聞いて、さっそく会いに来たのである。
「やあサンドラ!ようやく会えるようになったね!」
伯爵はニコニコ顔でサンドラの頬に口づけ、持参した花束を差し出した。
「ハブリー、ありがとう!」
笑顔で受け取ったサンドラはそれをセバスに渡すと、「お茶にしましょう」と彼を庭の東屋に誘う。アデラが男爵になったので早く婿を迎えたかったし、自分たちの結婚のことも話し合わなければならない。
「ねえサンドラ、あなたはもう男爵位をアデラに譲ったのだろう?」
出されたお茶に口をつける間もなく、イイデンナ伯爵がきり出した。サンドラは驚きに目を見張る。昨日の今日で、まだ世間に発表されてはいないのだ。
「あら、よくご存じですわね?」
「あ、ああ、王宮内にちょっとツテがあってね。そこから聞いたんだ」
それを聞いてサンドラは顔を輝かせる。
「さすが私のハブリー、頼りになるわ!!」
やはり伯爵ともなると違うと、彼の顔の広さに感心する。当人はなぜか少し気まずそうにしているが。
「ですから、アデラの婿取りを急ぎたいんですの」
王家が認めたとはいえ、若い娘ひとりではやはり心配だ。アデラをしっかり支え、自分の言うことを聞く婿が欲しい。
「その件なら心配ない。あなたが謹慎中で話せなかったが、もう話はおおかた通っているからね」
なんと謹慎中にも自分のために動いてくれていたのだ。やっぱりハブリーはすごいと感心しつつ、サンドラはいきおい込んで聞いた。
「どこのご子息ですの?」
「ある伯爵家の次男でね、アデラ嬢と歳も近いし、気の良い男だよ」
「伯爵家の方ですの!それはどこの・・・」
「それよりサンドラ、私たちの結婚の話をしようじゃないか!」
家名を訪ねようとしたサンドラを、イイデンナ伯爵はさえぎった。
「あなたは隠居になったのだから、もう自由だろう?私は一日でも早くあなたと結婚したいんだ」
「まあ、ハブリーったら!」
サンドラはまんざらでもないように笑った。その手には、伯爵がくれたダイヤが輝いている。
「だからさ、これから結婚式を挙げるのはどうだい?」
この国の貴族は、教会で式を挙げたという証明書がないと届け出が受理されない。正式な結婚と認められないのだ。
「え??」
あまりに予想外の言葉に、サンドラは聞き間違いかと思い聞き返す。
「だから、今日これから結婚式を挙げよう!」
「や、やだハブリーったら、冗談ばっかり!」
「私は本気だ。近所の教会の司祭に聞いたら『今日OK』だって言われたから、今から行こう!」
冗談だと思ったサンドラだが、伯爵の真剣な表情に本気だと気づく。しかし「今日OK」なんて、そんな気軽に式を挙げるのはいかがなものか。
「でも私、結婚はアデラの後と思ってましたのに」
そして王都の大きな教会で、豪華な結婚式を挙げようと思っているのに。支度金は出なかったが、伯爵はお金持ちだから大丈夫と思っているのに。
「あなたが今も男爵ならそうだが、もう譲ったんだから待つ必要ないだろう?」
伯爵は立ち上がり、サンドラを促すようにその手を引いた。
「頼むよサンドラ!私はすぐに結婚したいんだ」
「だってハブリー、ウエディングドレスもないのに」
「そのままでかまわないさ、いつだってあなたは美しいのだから」
伯爵はサンドラを立たせると、情熱的に口づけをした。そしてサンドラをお姫さま抱っこで抱き上げる。
「あら、あら、あら!」
その男らしい強引さに、サンドラは戸惑いつつも喜びの声をあげた。こんなにも情熱的に求められるとは、若い娘に戻ったような気分だ。
そしてそのままウットリした気分で馬車に乗せられ、伯爵のご近所の教会でふたりだけの簡素な式を挙げ、結婚の届け出をした。
そう、サンドラはこの日、イイデンナ伯爵夫人になったのである。伯爵はそのままサンドラを王都の伯爵邸に連れ帰った。細かな問題はひとまず棚上げにし、今は愛される喜びに身を任せることにしたサンドラは、自分が奈落への一歩を踏み出したことをまだ知らない。




