サンドラ、王宮に呼び出される
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数日後、サンドラの姿は王宮の一室にあった。あれからすぐに王宮からの通達があったのだ。
「私は王子妃の母なのだから、恥ずかしくない恰好をしないと!」
この日は朝から風呂に入り、凝った形に髪を結い上げると、一番上等のドレスを着込んだ。そこにネックレス、イヤリング、ブレスレットとつけまくり、最後にハブリーのくれたダイヤの指輪をはめる。
そして「支度金!支度金!」と胸を弾ませながら、馬車にのってやってきたのである。
「お待たせしました」
部屋を開けたディランは、サンドラの着飾った姿に一瞬ぎょっとする。
こんなに着飾って、何を考えているんだこの女は?
シンデレラが王宮にいるのに、これまでの所業をとがめられる心配をしていないのだろうか?彼女の話では、アスター男爵家は財政状況が良くないはずだ。普通であれば、散財がバレないようにわざと質素な服装をするところだ。
やはり、この女は永久に排除しないとだな。
シンデレラには罰などは与えないで欲しいと懇願されているのだが、この無神経っぷりではこの先王家が迷惑を被りかねない。ディランは表情を引き締めると、サンドラの前に一枚の書類を置いた。
「まずはこれにサインをお願いします」
それは本日をもってアデラに男爵位を譲ることを届け出る書類であった。
「えっ!これはどういうことですか?」
支度金の話だと思っていたサンドラは、その内容に目を丸くする。
「あなたには隠居することで責任をとっていただきたい」
「なんの責任です!?」
思わず声が甲高くなる。
「バーサ嬢が舞踏会の夜に王宮の庭で騒ぎを起こしたのは、あなたも知っているのでしょう?」
「庭にいたのは知っていたのですが」
サンドラはちょっと気まずげに目を伏せた。だが、納得はいかない。先日家に来たときは何も言っていなかったのに、なぜ今さらそんなことを言われるのだろう。
「あのような姿で王宮内を徘徊するのは不敬行為です。本来なら本人と男爵家に罰が与えられるが、この件について口外しないことを約束し、あなたが隠居するなら不問といたしましょう」
この国では、家の当主が隠居することで不祥事の責任を償うことがある。政治などの表舞台から遠ざかるのだ。
「しかしアデラは女性です。近いうちに婿を迎えて、その方に継いでもらおうと思っていたのです。もう少し待ってもらえないでしょうか?」
「それでは責任を取ったことになりません」
それではただの代替わりだ。ディランはメガネをくいっとあげながら指摘する。
「娘への爵位継承は今までに前例がないですが、法的には認められています」
「それはそうですけど。シンデレラはローレンス殿下の妃になるのですから、ちょっとくらい待ってくれても・・・」
サンドラは食い下がる。いずれアデラの婿に譲るつもりの爵位だが、命令されると何故か反発したくなるのだ。
「いえ、そうはいきません!それともアスター男爵家を取り潰しにしましょうか?いいんですよ、シンデレラ嬢を養女にしたい高位貴族はたくさんいますから」
そう言って、ディランは書類を手元に戻そうとする。
「うっ!・・・わ、分かりましたわ!!」
サンドラはひったくるように取り返すと、書類にしかたなくサインした。シンデレラが高位貴族の養女として妃になれば、自分が母として幅を利かせることができなくなってしまう。
これはあの小娘の嫌がらせなのかしら?
だが自分は間もなくイイデンナ伯爵夫人になるのだ。男爵位を譲っても貴族の身分は保たれるし、なにも困らない。「私のほうが一枚上手ね!」と、サンドラは心のなかでシンデレラに舌を出した。
「それからアスター男爵家の屋敷と土地ですが」
「は、はい」
ディランの言葉にサンドラは我に返る。
「どちらもシンデレラ嬢からアデラ嬢へと譲渡されます」
「まあ、ありがとうございます!」
サンドラは心からの笑みを浮かべた。アデラは自分の子だし、婿にもイイデンナ伯爵の息がかかった男がくる。思っていたのとは違ったが、あの娘からアスター男爵家を乗っ取ることには成功したようだ。
「それであの、シンデレラの支度金については?」
調子づいて尋ねるサンドラに、ディランは冷ややかな目を向けた。
「支度金?シンデレラ嬢に必要な品や、婚姻にかかる費用はすべて王家が出します。アスター男爵家の負担はありませんのでご心配なく」
つまり男爵家への支度金は出ないと言うことだ。出費がないのだから当然だろう。
「そ、それはありがたいことですが、私も親として何かしてあげたいと思っておりますので」
サンドラは少しでも払わせようと食い下がる。それで自分と伯爵の結婚式を華々しくあげたいのだ。シンデレラには、自分が飽きてしまったアクセサリーでも贈っておけばいい。
「もちろん、贈り物は王宮に届けてくださればシンデレラ嬢にお渡ししますよ」
ディランはにこやかな笑みをサンドラに向けると、話は終わりだとばかりに書類を持って立ち上がった。
「え?あの、デキールさま!」
引き留めるサンドラの声を背中で聞きながら、ディランは外に控える騎士に「早く追い出せ!」と目で命じた。




