ディランとバーサの密談
毎日3回、7:00、11:00、16:00に更新します。アルファポリスさま、カクヨムさまにも投稿中。アルファポリスさまでは、数話分先行して更新しています。
そして今、ディランは薄暗い部屋でバーサと向き合っていた。「ふたりだけで話がしたい」と、渋るケイトを無理やりに追い出したのだ。
「で、キミは何をそんなに謝ってるんだ?」
腰を抜かした格好悪い姿をさらしてしまったので、ディランは偉そうに腕を組んだ姿勢で訊いた。
「だって私を牢屋に入れるんでしょう?でも舞踏会をちょっとのぞいて見たかっただけで、悪気はなかったんです!」
「だから許してください」と相手は涙声で言う。腕に抱える人形がこちらをにらんでいるようで怖い。どこかに置いておけと言ったのだが、それはどうしてもダメらしい。
舞踏会の夜に庭を徘徊していたのは、やっぱりこいつか!
大騒ぎしたが、結局は不審者でもなく幽霊でもなく、ただの変わり者の令嬢だったのだ。
「うむ、キミの心がけしだいでは不問に付すこともできるが」
幽霊だと思って気絶してしまったことは、誰にも知られたくない。もとよりバーサを捕まえる気はないが、ここで脅して口止めしておかねばとディランは考える。
「はい、なんでもします!私、呪いは得意です!!」
思いもよらない答えにディランは飛び上がる。
「なにっ!?で、ではその人形は、やっぱり呪いの人形なのか?」
気味の悪い人形から少しでも離れようと、ディランは椅子のうえで身をよじった。
「いえ、これは子供のときに父からもらった宝物です。ベティって言います」
「首が壊れちゃって」と言いながら、バーサは愛おし気に腕のなかの人形を撫でる。それはそれでなかなかにホラーな光景なのだが、バーサは気づかない。
ディランはその光景から目をそらしながら、「なら呪いで何ができるんだ?」と聞いた。
「そうですねぇ、最近成功したのは『人を罵るとニワトリの鳴き声に変わる呪い』です」
ガタン!
部屋に大きな音が響く。ディランが椅子ごと床に倒れた音だ。
「わあ、大丈夫ですか?」
バーサは立ち上がって助けようとしたが、ディランはそれを手で制する。
「大丈夫だ。それよりそれ、もしかして母親にかけたのか?」
「はい」
バーサは長い前髪を揺らしてコクコクとうなずく。
「ほ、ほかにはどんな呪いがあるんだ?」
立ち上がって椅子に座りなおしながら尋ねた。
「うーん、『パンツのゴムが毎日ゆるゆるになる呪い』とか、『ウソをつくとくしゃみが止まらなくなる呪い』とか・・・」
「わかった、もういい」
なんだろう、向き合って真面目に話しているのに、少しも分かり合えないこの感じ。だが、そろそろ時間だ。
「いいかい?私との約束を守れるなら、舞踏会で騒ぎを起こしたことは不問にしよう」
「はい!」
バーサは座ったまま背筋を伸ばした。
ディランは舞踏会の夜のことは誰にも言わないこと、誰かを呪うのはしばらく止めることを約束させた。もちろん「破ったら牢屋行きだ!」とたっぷり脅して。
「呪いは素人が手を出すと危険だ。ちゃんと学べる所を探してあげるから、それまでは禁止だよ」
「呪いを学べる場があるんですか?」
バーサは身を乗り出す。
「ああ、キミにはそれなりに力があるみたいだから、どこかで引き受けてくれないか聞いてみよう」
呪いは一般的に効果の不確かなおまじないのように思われているが、実際は実力がある者が掛ければかなりの効力を発揮する。あまり知られていないだけで、王宮にも呪いの研究所があるのだ。
「ありがとうございます!!」
バーサは勢いよく立ち上がって頭を下げる。牢屋行きを許してくれただけでなく、呪いを学べるようにしてくれるなんて、なんて親切な人なんだろうと感激していた。
ディランにしてみれば、バーサをどうにかするより呪いの研究所に押し込んでしまったほうが楽だと思っただけなのだが。
「約束を忘れるなよ」
最後にそう念押しすると、ディランはバーサの部屋をあとにした。




