王子の敏腕側近(自称)の憂鬱-1
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スットコランド王国は、温暖な気候と実り豊かな大地を有することで知られた国である。その歴史ある王宮の執務室で、王子のローレンス・スットコと側近のディラン・デキールが向かい合っていた。
「殿下、そろそろお決めになりませんと」
決めるとは王子の妃のことである。輝くような金髪に青い瞳、整った顔立ちのローレンス王子は今年で20歳。そろそろ結婚しなければならない年齢だ。しかし妃候補としてあげられた令嬢は、どれも彼の心を動かさなかったらしい。
「それなんだけどさ、ディラン。いっそ国じゅうの若い娘を舞踏会に招待するっていうのはどうかな?そのなかから妃を選ぶんだ」
ディランはトレードマークのメガネを片手で「くいっ」とあげて王子を見やった。そのレンズの奥の瞳は知的な感じのするブラウン。いつも背筋がピンと伸びているのは、ちょっぴり背が低めなのを気にしてのことだ。彼は名門伯爵家の三男坊であり、王子と同じ歳であることから側近に抜擢されていた。
今、そのディランの心のなかはこうだ。
はぁ!?国じゅうの娘って、そんなん王宮に入りきるかい!それに平民の娘が妃になれるわけないじゃん!!!
しかし王子の敏腕側近を自称する彼は、内面の苛立ちを隠して冷静に答えた。
「それはいささか難しいと存じます。平民の娘の年齢や所在まで王宮で把握しておりませんし、そもそも人数が多すぎます」
そこでまたメガネをくいっとする。
「だいたい平民の娘をお妃にするわけにかいかないでしょう」
妃にだってやってもらわねばならない執務はあるのだ。平民には読み書きさえできないものが多いというのに、務まるはずがないではないか。
「心優しい娘であれば、私は平民だってかまわないと思っているぞ」
ローレンスは微笑みながら青い瞳を側近に向けた。
「平民には荷が重すぎると申し上げているのです。将来は王妃となるのですから、貴族令嬢でさえかなりの重圧を感じるはずです」
平民の娘にそのような重圧を背負わせるなど、なによりその本人が可哀そうである。
「私が支えるから大丈夫だ。真実の愛さえあれば、ふたりで何でも乗り越えられるはずだからな」
王子はそう言って、窓の向こうの青空を仰ぎ見た。その空の下のどこかに、自分の運命の相手がいるのだとでも言うように。
ディランはため息を押し殺しつつ、壁際にひかえる護衛の騎士たちへ視線を動かした。みんなすました顔をしているが、きっと内心では全員同じことを思っているに違いない。
「「「でた!殿下の真実の愛!!」」」
なぜなら王子が「真実の愛」とやらに憧れていることは、側に仕えるものの間では周知の事実だったからである。
ローレンス王子は見た目が良いだけでなく、まじめで努力家でもあり、頭も悪くない。今も王子としての執務は難なくこなしているし、将来は立派な王になると誰もが思っている。
しかし、ことが恋愛や結婚となると、急に夢見る乙女のような世界観を展開してしまうのだ。
「ああ、私の運命の人がこの国のどこかにいるんだ・・・そうだ、妃を探す旅に出よう!」
王子は窓辺に駆け寄ると、何度目かの「旅に出る」宣言をした。護衛の騎士たちが、王子からいっせいに視線を逸らす。
まあ、殿下がああなったのも仕方ないけど。
妃選びが進まないのには困っていたが、ディランは王子に同情してもいた。王子が恋愛お花畑におちいったのには、それなりの理由があるからだ。
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